しかし延長後半に入って、フランスのセンターバックは予想以上にエデルとのコンタクトにダメージを受けていたのだろう。ほんの一瞬、マークを緩めたときだった。エデルに渾身の右足を振らせてしまう。

 ポルトガルはエデルのこの一発が決勝点になり、欧州王者に輝いた。彼ららしい幕切れだった。グループリーグを3引き分けで勝ち抜け、決勝トーナメントもクロアチア、ポーランドと延長まで戦っている。勝負を焦らず、弛まず、相手を引き回す巧さを見せた。

 「運があった」と片付ける声もあるが、それは当たらない。ポルトガルの戦いの重厚さは、優勝にふさわしかった。レナト・サンチェスのようなルーキーが台頭、リカルド・クアレスマは切り札として流れを変え、(準決勝は34歳のブルーノ・アウベスが代役を務めるなど)センターバック、サイドバック、中盤と誰が出ても遜色なく、システムも試合の中で淀みなく変更できた。

 「我々は勇敢な兵士だったよ」

 この日、守備の芸術を見せたペペは言ったが、戦いの気骨が栄光をもたらしたのである。

(文・小宮良之)