だがそのラオニッチも決勝戦では、地元の期待を背に戦うアンディ・マレーに、4-6 6-7 6-7のスコアで敗れる。四大大会決勝の舞台に初めて立つラオニッチに、硬さが見られたのは否めない。希代のカウンターの名手であるマレーから、得意のサーブで8本しかエースが奪えず攻め手に欠いた。今季0.762の高い獲得率を誇ったタイブレークでも、ミスが目立ちいずれも落とした末の敗戦である。

 対するマレーには、経験に裏打ちされる自信と落ち着きがあった。マレーのグランドスラム優勝は今回で通算3度目だが、決勝の舞台という意味では11回に達し、今季だけでも3大会連続で進出している。

 そのマレーを幾度も決勝で破ってきたノバク・ジョコビッチを筆頭に、マレー、フェデラー、ラファエル・ナダルの“ビッグ4”が、世界ランキングトップ4を占めている状況に変わりはない。2005年の全仏オープン以降、今大会までのグランドスラム総計46大会のうち、この4選手以外が優勝したのは、ファンマルティン・デルポトロとマリン・チリッチの1回ずつ、そしてスタン・ワウリンカ2回の4例だけである。

 また、グランドスラムの次に高い格付けの大会群“ATPマスターズ”においてもベテラン勢の支配は顕著で、2013年以降のマスターズ計31大会のうち、現在29歳のジョコビッチよりも若い選手が決勝に勝ち上がったケースは、僅かに7回を数えるのみ。もっともその内訳は、錦織が2回でラオニッチが3回、そしてデルポトロが2回。度重なる手首の手術で戦線離脱を繰り返しているデルポトロを除けば、錦織とラオニッチのみが、時代を動かすべく厚い壁をたたき続けているのも、また確かだ。

 「良きライバル」と認めるラオニッチのウィンブルドンでの躍進は、負けず嫌いを自認する錦織の野心にも、熱い火を灯したことだろう。思えば今季は、3月中旬のインディアンウェルズ・マスターズでラオニッチが決勝に進出し、するとその直後のマイアミ・マスターズでは、錦織が決勝に勝ち進んだ。

 いつかいつかと待ち望まれながら、未だ訪れぬ“ポスト・ビッグ4”の時代。

 それでも、漂う世代交代の気配は、着実に濃度を高めつつある。

(文・内田暁)