そのためにも必要不可欠なのは、9秒台だ。肉離れで出場できず、テレビでみるだけに終わった昨年の世界選手権が、決勝進出ラインが9秒99まで上がっていたことを強く意識しているからだ。さらに彼自身も9秒台がすでに、夢の記録ではなく手が届く記録だと実感している。それに2015年3月に追い風参考記録ながら、9秒87で走っているという事実もある。

 「9秒87といっても追い風参考だから自分ではもうどうでもいいと思っているし、肉離れをしたことで自分の体も変わっているので過去を追い求めるのではなく今の自分を作りたいと思っています。9秒台、9秒台といってるのは日本だけだから、そんなのはもう関係ないというか……。基準を日本にしたらダメなので、アメリカとかジャマイカとか、記録がドンドン上がっている世界を意識したい」

 以前こう話していた桐生は、10秒00でも準決勝敗退になっている昨年の世界選手権をみて、リオで決勝に行くためには予選から自己ベスト、という計算になるとも言った。

 「いろいろゴチャゴチャ考えるのも面倒くさいし、まずは準決勝でと言われるけど、僕が目指しているのはそこではないから。準決勝で負けるんだったら予選でビリと一緒だと思っているので、そういうことを考えずに上を見たいですね」

 リオ五輪で勝負するためにも、できれば事前に9秒台を出しておきたいと話していた桐生。まずはリオに先立ち、予定するヨーロッパ遠征でどんな走りをみせるかにも注目だ。

(文・折山淑美)