ところが、治療を患者さんに届けるにしても、大きな製薬会社は乗ってきてくれません。私は2000年代の初めの頃には治療としてできると確信していたので、やらないと遅いんですよ。誰もやると言ってくれないので、私が会社をつくってやることにしました。

――現在、加齢黄斑変性の臨床研究として、iPS細胞から作った網膜色素上皮シートの患者さんへの移植を進めています。2014年に1人目の移植手術を実施して、経過は順調ということです。今は2例目の準備を進めていますが、治療法にするまでの課題はなんでしょうか。

 今のルールの中では、ゆっくりとしか進められません。私たちはルールの中では最も早くできる方法でやっていますが、まだ時間がかかります。

 日本はルールを守ることが目的になっていることが多いので、本質を考えてほしいですね。何のためのルールかと考えると適用が変わることもあります。「このルールはおかしい」という指摘もしながら、やっています。

――医学部を目指す人へのメッセージをお願いします。

 何を選んでも不正解はないと思っています。選んだものが正解だから、どれでもいいですよ、というのがアドバイスです。大学も学部も悩みますが、どこで何をしようと、やりたいことが出てきたときにはそれができます。いま決めて終わりではありません。

 若い人たちには期待をしています。日本ではルールを守るのはいいのですが、変えたくないという人が多い。安定志向の人が多いのでじり貧になって、停滞しています。だから、若い人たちにはどんどんそれを打ち破って変えていってほしい。本当に未来をつくるためにはチャレンジをしてリスクをとってほしいですね。

 私の研究の原動力は、患者さんのために新しい治療法をつくるということです。そのためには変なルールに縛られたくない。ルールだけを見ていると何も見えてきませんが、何が一番大事かと考えたら、いくらでも目的に向かっていく道があります。

 新しいことにチャレンジをしてください。新しいことにチャレンジすると、ルールや壁にぶつかるんです。それをどう回避し、打ち破るかを、一生懸命に考えます。うまくいくと喜びがありますし、ただルールを守っているだけよりも楽しい人生ですよ。

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