医学生気質について、近畿大の伊木雅之医学部長が話す。

「とてもまじめです。おとなしく積極性に欠ける一面も見られることがあります。それがあまりにも受け身で、患者さんに声をかけられないというのでは困ります。患者さんの状況を理解できず、治療できませんからね」

 これは近畿大に限ったことではない。すべての医学部教員の感想といっていい。まじめすぎるのは、「一番難しいところ」を目指した学生の特性だろう。

 さらに、マニュアル化した態度を示す。医学部出身の郡健二郎・名古屋市立大学長の指摘は手厳しい。

「やんちゃな学生がいなくなった。面接ではしっかりものを言うけれど、人格を作って演じているように感じます。入学時、地方の医療現場でがんばりたいと言うが、実行されない。これもフィーリングで話しているようなものです」

 マニュアル通りでも、たとえフィーリングで「地方で診療したい」と話したとしても、すばらしい医者になれるのであればそれでいい。だが、まじめゆえ途中で悩む医学生がいる。勉強が手につかない。すこし考える時間がほしい。

 それが昨今の留年率の高さに表れている。また、考え抜いて医学の道をあきらめる学生もいる。休学率の高さにそれが表れてしまっている。

■モチベーション高める医学部側の工夫

 医師としての適性を考えてほしい。医師としての自覚と責任を持たせたい。モチベーションを高めたい――と、多くの大学は医学教育に工夫を凝らしている。昨今では早い時期から患者と接する機会=臨床体験をさせるようになった。これまでならば臨床は5年次以降だったが、入学早々という大学も増えている。

 そもそも医学部に入学するまで、ほとんどの学生は医師という仕事は想像できないだろう。たとえば、医師の世界が、患者を診る臨床医、最先端医療に取り組む研究医に分かれていることは、案外、知られていないものだ。

 研究医は5%ほど(文科省調べ)。ノーベル賞の山中伸弥さんがもっとも象徴的な存在である。

「最近とみに、医学部卒の研究医が少なすぎます。残念なことに研究医は患者を診ることができないという偏見が社会にある。そんなことはありません。良き研究医の多くは、心も独創性も豊か。医学生が画一的にならず、医療を切り開いてほしい。そして、医療の発展に尽くしてほしい」(名古屋市立大・郡健二郎学長)

 臨床医、あるいは研究医になりたいが、自分は向いているだろうか。悩む受験生に、こんなアドバイスをしてくれた。

「医学部に入ってからは忙しくなります。その前に高齢者や、介護が必要な方へのボランティアをすることをすすめます。誰かのために何かをするという経験から、自分が将来、社会にどのように役に立てるかを考えてほしい」(近畿大・伊木雅之医学部長)

 医学部に入る前に、医師という職業が自分に合うかどうか、外へ出てしっかり確かめるのもいいだろう。(小林哲夫

※週刊朝日MOOK『医学部合格「完全」バイブル2017』より