チャート1:“理数系学部”で最も志願者数が伸びた学部別志願者数の増減(2004/14年)※参考:文部科学省「学校基本調査」(2004/14年)(週刊朝日ムック『医学部合格「完全」バイブル2017』より)
チャート1:“理数系学部”で最も志願者数が伸びた
学部別志願者数の増減(2004/14年)
※参考:文部科学省「学校基本調査」(2004/14年)
(週刊朝日ムック『医学部合格「完全」バイブル2017』より)
チャート2:医学部定員の推移※参考:文部科学省資料(週刊朝日ムック『医学部合格「完全」バイブル2017』より)
チャート2:医学部定員の推移
※参考:文部科学省資料
(週刊朝日ムック『医学部合格「完全」バイブル2017』より)

 近年、理数系の秀才たちがこぞって進学している医学部。人気が過熱する一方で課題も出てきた。「偏差値重視」の“弊害”なのか、勉強はできるがコミュニケーション能力に欠ける学生がいるという。

 週刊朝日ムック『医学部合格「完全」バイブル2017』では、その実態を探った。その内容を二回に分けて配信する。第一回では、医学部がどれほど人気を集めているかを明らかにするとともに、人気のウラにある問題点をあぶり出す。

■「成績上位」の理由だけで医師を目指す時代に

 会場が、少しざわついた。

「人と接するのが好きではないけれども、偏差値が高いから医学部に入ろうと思う方がたくさんいると思うんです」

 2009年4月、文部科学省が所管する審議会の一つ「医学教育カリキュラム検討会」で、ある公立大学出身の研修医(08年卒)がそう発言し、さらに、こう続けた。

「一番難しいところに挑戦しよう、じゃないですけれども、そういった感じでやはり成績のいい人は医学部を目指す傾向が強いんじゃないかな、と思います」

 この発言は、いまから7年前。年齢的にも若く、経験も浅い研修医がこう苦言を呈した背景には、医学部受験の志願者数が影響していた。

 2004年と14年を比較した、文部科学省が行った志願者数の増減の調査によると、工学部など理数系学部の志願者数が減少、もしくは伸び悩むなか、医学部は4万7342人も増加した。2位の経営学部に1万5000人以上の差をつけ、断トツだ。

 医学部人気に比例するかのように、近年、医学生の資質を問う声が高まっている。成績はすこぶる良いものの、コミュニケーション能力に欠けている学生が目立ってきているという。受験生だけでなく、成績だけで判断して医学部を薦める保護者も増えてきた。

 現在はどうか。数人の医学部長に話を聞くと「相変わらずだ」、あるいは「もっと増えている」という答えが返ってきた。ある大学の医学部長も嘆く。

「人と接する機会が少ないのです。スマホでしか会話ができないので、面と向かって何と言っていいかわからない、という学生もいる。空気を読めないのではなく、空気を体験していない。これでは医師は務まりません」

■将来的な医師不足への対応は定員枠の拡大

 冒頭の研修医が指摘する「一番難しいところに挑戦」は、1980年代から言われてきた。2010年代も半ばに入ったいま、それは、ますます顕著になっていて、予備校の偏差値でも如実に示される。

 たとえば、東京大理科I類、II類よりも、北海道大、東北大、筑波大、東京医科歯科大、名古屋大、神戸大、九州大の各医学部のほうが高い。東北大、東京工業大、名古屋大、大阪大、九州大の各工学部よりも、群馬大、千葉大、横浜市立大、山梨大の各医学部のほうが高い。

 08年以降、将来的な医師不足への対応として医学部定員枠が拡大し、医学部学生がずいぶん増えた。成績優秀な学生がどんどん集まってきたからだ。医師になりたいという人もいれば、成績が良かったからという人もいるだろう。

 こうしたなか、ごく一部ではあるが、「人と接するのが好きではない」学生が現れた。医学部関係者は頭を抱えてしまった。これは医師としての適性、つまり、向き不向きの問題である。(小林哲夫

※名実ともに“理系最強” 過熱する医学部人気の「深層」(2)へつづく

※週刊朝日MOOK『医学部合格「完全」バイブル2017』より