レアルは試合を通じて守勢だった。実のところ、ジダンが打った手は成果を出していない。交代出場のダニーロ、ルーカス・バスケスは戦犯になってもおかしくない鈍重さで、マルセロは裏を狙われ続け、C・ロナウドは精彩を欠いたままピッチを彷徨い、ベイルは走れる状態ではなかった。戦術家としてのジダンは、敗将の要素満載だったと言える。

 しかし、ジダンは勝利した。英雄はこう言い切っている。
「最後は疲れ切っていましたが、こうした試合は、そもそもが厳しいものなのです」

 腹を括った指揮官の言葉が、選手たちを覚悟させ、戦術的劣勢も凌がせたのかもしれない。PK戦前、最低に近い出来だったC・ロナウドが「5番目のキッカーを蹴らせてくれ」と申し出てきたとき、ジダンは即座にその任を与えた。フランス人監督は、王者になるために大事な呼吸を知っていたのだろう。

<ポジティブなマネジメント>

 ジダンの手腕はそこに尽きた。彼はシーズンを通じ、どんなときも肯定的で、否定的な物言いをしなかった。それが天運を呼び寄せたのだろうか。

「2番のことはみんな忘れるだろう」

 敵将シメオネが絞り出した言葉が、栄光に包まれる王者との果てしない距離感を映し出すのだ。

(文・小宮良之)