「もともと文学賞は業界が『本を売るため』に始めた側面がありますが、近年は深刻な出版不況。ただ『○○賞受賞作』というだけではあまり売れなくなった。広告を打つにしても、テレビCMや大型の新聞広告などはよほどの売り上げが見込めなければできない。しかし、芸能人が受賞すれば各メディアで勝手に大きく取り上げられ、本人がテレビなどで宣伝してくれる。単に候補に入れるだけでも賞レースの注目度が高まります。かつては若くて美人な女性作家を“客寄せパンダ”に使うことがありましたが、近年はそれが『芸能人』にまでエスカレートしたともいえます」(出版関係者)

 文学賞の多くは出版社が主催している。となれば、選考に多少なりとも商業的な理由が加味されるのは仕方ない部分もありそうだ。また、これはタレント事務所や書店にとってもメリットが大きいという。

「基本的にタレントが受け取った印税から所属事務所は何割かを差し引きます。事務所によっては億単位の印税の約半分を搾取する場合もあるので相当な収入。さらに作品がドラマや映画になれば所属タレントを送り込みやすくなるといった恩恵もある。また、書店にとってもあまり収益が見込めない文学コーナーが芸能人作家によって活性化するのは喜ばしいこと。出版社、芸能事務所、書店のすべてにメリットがあるとなれば、この流れは止まらないでしょう」(同)

 押切の文才を評価する声はあるものの、山ほどいる有能な作家の中で彼女が候補に選ばれたことに意図を感じてしまうのは正直なところだ。業界に大きな利点があるのは理解できるが、肝心の読者はどう思っているのか。目先の利益にとらわれて、取り返しがつかない客離れを引き起こさなければいいが……。(ライター・別所たけし)