店づくりを始めてからピークのただ中まで、休憩に入る姿を見ることはなかった。缶コーヒーを飲みながら、パンをかじりながら、手はいっときも休ませない。しかし、どれだけ忙しくとも、常に走りまわるようなことはなく、怒号が飛び交うわけでもない。ひとりひとりが、誰からの指示を受けることもなく、淡々と、黙々と店づくりを進めていた。

 5時をまわり空が白んでくると、籠を持った買い付け客が入り始めた。場内全体に、一気に活気が降りる。

「はい、◯◯さん、サヨリ1.2、サバ2.5、タイ3.6……」こんな声が、店内のあちこちから聞こえてくる。「◯◯さん」とは、お客さんの店名。魚の名称の後に続く数字は、キロ数だ。その声に、帳場さんたちがハイ、ハイ、と応じていく。あっという間に伝票が書き上げられ、会計が終了。そんなやりとりが、何十回も何百回も続けられていた。

 6時を過ぎてすっかり明るくなった頃には、ピークの真っただ中となる。50人を超えるやまふの店員は、フル稼働だ。

「はい、◯◯さん、いらっしゃい。あれ、頭にごみついてるよ。何つけてんの?」「愛情!」
「(この魚を)今日買っても、今日は使えないよ」「いいんだよ。明日休みで、明後日使うから」

「(魚の)頭、割っちゃったよ」「私の頭も割れてるから、気にしないで」

「シマアジは、どうしても脂が強いから……」「だいじょうぶ。今日はそれで」

こんなやりとりが、息をつく間もなく繰り返されていく。
 

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