おそらく日本の多くの患者は、二流患者に分類されるのではないだろうか……。きっと誰もが病気になったら、「自分は医療の専門家ではないから、しっかりお医者さんに任せたほうが安心」という気持ちが、どこかにある。あるいは、「医者が上、患者が下」という意識があって、医者にモノをいいにくい雰囲気もあるかもしれない。

「日本の患者さんの多くは、損をしています。アメリカの患者さんの多くは、医者に質問をするだけでなく、治療法の提案もどんどんしてくれます。もちろん、医者のいうことを鵜呑みにしませんし、自分自身で情報収集することも忘れません。医者と患者は対等のパートナーなのです」(同)

 今や考えられる治療法や薬の選択肢が増えているので、医者であっても「何がベストか」という判断は、迷いが生じるものだという。そういう医療の現状で、日本の患者の多くが、まだまだ「お医者さんにお任せします」というスタンスは、アメリカの医師から見ると、ちょっと信じられないのかもしれない。

 だからこそ「誰もが一流患者を目指すべきです」と、上野さんは力説する。「医者のいいなりに治療をして、後になってこの治療法で本当に良かったのか、別の方法があったのではないか……と後悔するのが、いちばんもったいないケースなのです」と。

■医者だって人間だもの

 上野さんが、患者のスキル向上を説くのには理由がある。
 がん治療を専門とする上野さん自身が、8年前の43歳でがんにかかったからだ。悪性線維性組織球腫(あくせいせんいせいそしききゅうしゅ)という珍しいがんで、医者であるのに「もう治らないのではないか」「死の恐怖」に襲われてしまったと、述懐する。
 つまり、頭では「医者に頼りきるのではなく、患者もしっかりしなければ」と分かっているのに、いざ自分ががんになると、ついつい何も考えられなくなってしまった、と。そんなご自身の体験があるからこそ「治療で後悔してしまうような二流患者のことは、自分のこととしても、よく分かるのです」と、上野さん。
 そう、「医者の正論」が患者を苦しめることもある。
 頭では分かっていても、なかなか自分の病気に向き合えないからこそ、患者は苦しいのだ。患者の立場に立脚して、いかに一流患者になればいいのか……。

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