折しも、世の中は空前の猫ブーム。「和歌山電鐵にいる“たま駅長”の人気にあやかり、“ねこ船長”にしてはどうか」と思いついた。折を見て、遊覧船の運営会社、山陰松島遊覧(鳥取県岩美町)の川口博樹社長に冗談交じりで「ねこ船長どうです?」と聞いてみたところ、「いいね~」とすぐに了承が得られた。こうしてミーちゃんはねこ船長という大役を担わされたのだ。
ミーちゃんは営業所スタッフらの愛情を受けてすくすくと育ち、現在は体長約30センチ以上まで成長した。食欲旺盛で、普段はキャットフードを食べているが、たまに魚を与えると食いつきが違うという。好奇心も強く、常に営業所の外に出る機会を狙っているという。
「目を離すとすぐにどこかへ行ってしまう」という気分屋のミーちゃんに振り回されがちな山根さん。それだけにかわいさも格別なようで、特に予定がない休日は、自宅の鳥取県岩美町からわざわざ世話をしに職場に来るのだという。「きげんが悪いとかまれます」と苦笑しながらも、ミーちゃんへのまなざしは温かい。ミーちゃんもそれに応えるかのように、山根さんの周りをぐるぐる回る。はたから見るとよいコンビだ。
当初は海に近寄りもしなかったミーちゃんだが、最近は慣れてきたのか、岸壁のそばを歩くのも平気になった。山根さんと一緒に停泊中の船に乗り込み、掃除に付き合うこともある。
船のロープをかみちぎったり、食料を食い荒らしたりするネズミの天敵である猫は、昔から縁起のいい生き物として船乗りたちに重宝されてきた。最近では、ミーちゃんを目当てに訪れる客もいるという。山根さんは「ミーちゃんが来て営業所も明るくなった。今はまだ見習いのようなものだが、いずれは岸壁で見送りぐらいはできるようになれば」と、その“招き猫”ぶりに期待する。
ミーちゃんが立派な船長となる日は、そんなに遠くないかもしれない。
(ライター・南文枝)