「観測された重力波を注意深く調べて計算すると、合体前のブラックホールのそれぞれの質量がわかります。合体してできた大きなブラックホールの質量もわかります。今回は、太陽の29倍と36倍の質量をもつブラックホールが合体して、太陽の62倍のブラックホールになりました。このときに、太陽の質量の3倍のエネルギーが重力波となって、宇宙に広がっていきました。このことが確かめられたのは、きわめて大きな成果です」

 それでは、13億光年という距離は、どうしてわかったのだろう?

「波形から天体の質量がわかると、逆にこういう質量の天体が互いに回り合ったらこれだけのエネルギーの重力波が出るはずということが、計算でわかります。発生源で放出されたエネルギーと、地球で受けた重力波のエネルギーを比べると、弱まった量からどれだけの距離を重力波が伝わってきたかがわかるのです」

■日本の「KAGRA」ができれば、謎はもっと解ける

 ただ、アメリカのLIGO2台だけでは、どこで今回の天体現象が起こったのか、詳しい位置は特定できていない。日本で建設中の重力波検出装置「KAGRA」などが稼働するようになり、地球上の離れた地点に3台以上の検出装置がそろえば、三角測量の原理でその天体の位置が特定できるようになる。そうなると、重力波を捉えた時点で発生源もわかり、世界各地の望遠鏡をただちにその天体に向けることで、重力波を発生させた天体現象のより詳しい解明が期待できるという。

「重力波を使った観測の成功は、人類が新しいタイプの望遠鏡を手に入れたのと同じことなんですよ」と、麻生准教授。重力波は、途中に物質があってもそれに邪魔されずに通過するので、はるかかなたからも届く。それを観測することで、これまで誰も知ることのできなかった宇宙のはじまりのころの様子さえ、詳しくわかるようになるかもしれないんだ。楽しみだね!

(文・上浪春海)

※月刊ジュニアエラ 2016年5月号より

ジュニアエラ 2016年 05 月号 [雑誌]

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AERA dot.編集部
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