保険診療と自由診療 特徴を理解したうえで病院を選びましょう(※イメージ写真)
保険診療と自由診療 特徴を理解したうえで病院を選びましょう(※イメージ写真)

 西洋薬と漢方薬を同時に処方されることも多く、身近になってきている漢方。漢方外来の受診には、健康保険を利用した保険診療と自由診療(保険外診療)があります。

 東京女子医科大学東洋医学研究所クリニック所長の伊藤隆医師はこう話します。

「大部分の医師は、たとえば『腰痛にはこの漢方を出すとだいたい効果がある』というように、症状によって治療法を定め、漢方薬を処方しているケースが多いです。しかし、漢方は本来、患者の体格、気力など個人の様子を見て『この人の腰痛ならこれ』とその人の体質にあった漢方薬を処方するのが基本です」

 漢方の診察方法では、このような点で漢方専門医と専門医でない医師の違いがありますが、保険診療と自由診療の違いはありません。

 では、保険診療と自由診療の違いは何でしょう。それは処方される薬の形態です。保険診療で用いられる漢方薬の多くは「エキス製剤」で、実際の診療現場でも「エキス製剤」が用いられるケースが多いです。一方、自由診療で処方される漢方薬の多くが生薬です。

「難治性疾患、膠こう原げん病、悪性疾患には『エキス製剤』だけで対応できない場合が多く、『煎じ薬』の出番が増えます。ところが、これらの疾患に効果的な一部の保険外の生薬を、保険診療で処方される薬と組み合わせて処方することはできません」(伊藤医師)

 保険診療と自由診療を併用することを「混合診療」といい、一部を除き、法律で禁じられています。

 自由診療では、保険外生薬を用いられる他、実情に即していない薬価のために保険診療では用いられない品質のより良い品を用いる、あるいは生薬の量を増やすなど、個々の病状に応じた細やかな調整がおこなえます。そのため「エキス製剤」による処方と比較して、より患者の希望、病状に応じた処方を調剤できるのです。形態も煎じ薬だけでなく、丸薬のように、各々病状に適した処方形態が可能となります。

「ある漢方薬が合わない場合、適切な診断や処方がなされていないために漢方の効果が出ていない可能性もあります。漢方専門医の資格を持っているか否かを基準に受診先を探してみてもよいでしょう」(同)

(取材・文/編集部・加納さゆり)

※週刊朝日ムック『正しく付き合う漢方2016』

東京女子医科大学 東洋医学研究所クリニック所長
伊藤隆医師

1981年、千葉大学医学部卒。医学博士。99年富山医科薬科大学和漢薬研究所漢方診断学部門客員教授、2001年鹿島労災病院メンタルヘルス・和漢診療センター長、09年副院長を経て、14年東京女子医科大学東洋医学研究所教授、15年4月から現職

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http://publications.asahi.com/news/598.shtml