「私のまわりのクルド人は皆イスラム教徒ですが、モスクに行っている人やお祈りしている人はほとんどいません。豚肉を食べる人もいる」(メメットさん)

 ネウロズには日本人もたくさん訪れ、異文化を楽しむ。地元の消防や警察からも祝辞が寄せられる。これもワラビスタンのクルド人が、定期的な掃除やパトロールを欠かさないからだろう。日本人と結婚する人も増えてきた。

「飲み会で出会って」と照れるメメットさんは、川口市に住む武藤しずかさん(27)と結婚して6年になる。いまでは50~100人くらいが日本人と夫婦になっているという。

 結婚を機に正式な滞在許可を得れば、メメットさんのように会社を設立することもできる。しかし、仮放免の立場では、就労は許可されていない。健康保険すらない。やむなく建築関連の不法労働でしのぐ人も少なくない。法務大臣に在留特別許可をもらい在留カードを手に入れれば就労は自由になるが、そのためには煩雑な事務手続きと費用がかかる。

 それでも日本には、次々とクルド人がやってくる。

「昔はみな知っている顔だった。それが最近は知らない人が増えた」という声も聞かれた。版図を広げているイスラム国(IS)から逃げてきた人も多い。ISを暗に支援するトルコと、ISと戦い続けているクルドの対立も根深い。

 終わりの見えない憎しみの連鎖から逃れてきた人々は、だから口々に「日本は平和で本当にすばらしい」「法律的にいろいろ制限はあるけれど、それでも戦いがないだけいい」という。

「日本に住んでいて差別はまったく感じません。蕨は過ごしやすい、いい街です。でも法律がもう少しやさしく変わってくれると、助かるのですが」(40代男性、仮放免中)

 ワラビスタンにクルド人が住みはじめて20数年、いまは2世、3世の時代になろうとしている。ネウロズの会場を元気に飛び跳ねるクルドの子供たちは、日本人とまったく変わらないイントネーションの日本語を話す。クルド語のわからない子もいる。

 会場でクルド人を紹介するDVDを配布していたのは、やはりクルド人の高校生たちだ。日本の普通高校に通い、日本の文化のなかで育ち、恋人も日本人。彼らは決意したように口々に「日本で勉強して、日本で就職したい」と語る。

 国際問題を受けて少しずつ流入する難民、そして地域社会との共生。ワラビスタンは、ひと足先に、日本がこれから直面する問題と向き合っている。

(文・写真/室橋裕和)