今まで戦国時代の研究というのは京都を中心にした関西視点が主で、関東のことはあまり視野に入れていなかった。それが若い世代を中心に関東の戦国時代について新しい研究が次々に発表されているんです。例えば有名な小牧長久手の戦いも、これまでの関西中心の目線ではなぜあそこで決戦しなかったのか、ということがよく分からない。これも実は関東方面の勢力の争いが、裏で豊臣や徳川に影響していた、ということが本当にここ数年、研究が進んで分かってきた。

 関東視点の歴史を描くことで、今までの歴史の裏側を描けるようになったんです。

 過去の先輩たちが大河で真田幸村を主役にしなかった理由というのも、よく分かるんです。幸村は最後の1年以外何にもわからないんですね。史実に沿ったドラマという意味では難しい部分があるんです。その意味で真田丸は、研究が充実してきたこのタイミングだったからこそと言えるかもしれません。

 大河ドラマの魅力というのは、タイムスリップして違う時代を体験できることにあると思います。当時には当時の考え方があって、女性観、死生観など現代にはない状況で生きています。そこを無視してはドラマの舞台がただ過去になっているだけですよね。番組開始と共に全然別世界の生活を体験し、番組が終わると現代に帰ってくる、これが大河の魅力です。かといって完全に現代の人間と隔絶していては見ている方が感情移入できない。跡継ぎが生まれない正室を冷遇して妾を何人も持ったというのも、当時は普通でもそのまま描いて喜ばれるかというと…。

 ただ私はどんなドラマも、基本はホームドラマだと思ってます。家庭というのはどんな時代を生きても避けては通れない最小限の生活の単位です。いつの時代も家族という単位や、喜怒哀楽のポイントというのはそう変わらないはずで、そこを描くのがドラマだと思っています。

 今、海外の歴史ドラマが非常によくできていて世界中で見られています。たとえば『ゲーム・オブ・スローン』という作品は、描かれているのはほぼ中世イギリス史です。中世やSF、ファンタジーなど、今の視聴者は舞台が変わっていても受け入れてくれる素地がある。
日本の時代劇というのは本当に世界に通用するドラマなんじゃないかと思っています。

●屋敷陽太郎
1970年、富山県出身。『真田丸』制作統括。93年NHKに入社しドラマ制作に携わる。主な作品に『新選組!』『江~姫たちの戦国』『64』など。