もちろん、小さなケガや故障は少なからずあった。とりわけ、この数年は増えているような気もする。しかし、ケガを最小限に食い止めるために、カズは万全の手を打ってきた。

 たとえば、それぞれの練習後には、17年前からどこに行くにも必ず傍らに寄り添うトレーナーの竹内章高によるマッサージや治療が待っている。

 実のところ、この竹内の細やかなケアがなければ、カズがここまで永らえるのは不可能だったと言っていい。痛みや張りがあれば、竹内がその芽をすぐにつみ取り、被害を最小限にとどめてきたのだ。その成果でもあるのだろう、カズは、自身の身体に一度としてメスを入れたことがない。身体のきしみが年々増えているという現実を前に、カズと竹内は、綿密に意見交換をし、ベストの道を探しつづける。

 繰り返すが、カズは49歳のサッカープレーヤーなのだ。しかも、まる30年、第一線でプロとして戦いつづけてきた選手なのである。身体が満身創痍(そうい)の状態であることは容易に想像がつく。

 6年前、カズがこんなふうに言ったことが忘れられない。

「過酷なことをやってきたツケとして、選手をやめて普通の生活に戻ったとたん、リバウンドが起きて歩くことさえできなくなるんじゃないか、という恐怖もある。90分走れる身体がいったいいつまで、どこまでもつものなのか、未知すぎてわからない」

 この10年、そんな恐怖を感じつつ、カズは自身の身体を追い込み、鞭打ってきたのだ。

(文・一志治夫)

※アエラスタイルマガジン30号より抜粋