「任官拒否は難しい。教官から厳しく指導され、下手すると卒業させてもらえなくなるかもしれない。そのプレッシャーは世間の人の想像をはるかに超えています。隠れ任官拒否であれば、内定を取った企業への就職に間に合わなくなる恐れもあったため、幹部候補生学校への着校を拒否し、内定先の民間企業に就職しました。周りに迷惑をかけましたが、それでも自分は自衛隊の外に出たかった」

 当然ではあるが、防大生が民間企業への就職活動を行うことはかなり制限がある。防大は全寮制で、自由に行動できる時間は、土日と祝日の外出と、春季と夏季、冬季の休暇期間しかない。

 一般に防大生といえば、国防の意識に燃えて入学したとのイメージがある。しかし実情はそれとは程遠い。第1志望の大学に合格できず、やもえず防大に進学した人も少なくない。このため、潜在的に民間就職を志望する防大生は数多いという。

「例年、任官拒否者の数だけをマスコミ報道ではクローズアップしています。しかし着拒、早期退職……など、卒業後1年以内に自衛隊との縁を切った人は、あまり注目されていない。毎年70人~100人くらいが防大卒業後1年以内に自衛隊を去って民間企業に転じていますから」(防大OBの銀行員)

 一方、熱烈な自衛隊を志望した防大生の卒業生がすぐに自衛隊を辞めてしまうケースも目立ってきている。

「自衛官が国防の意識を持って働いているかといえば、案外そうでもなかった。安定した公務員という雰囲気で、ヌルいのです。民間企業のほうがよほど"戦う集団"としてピリピリした空気感に包まれていたので、民間に転じました」(外資系証券会社に勤める30代後半の防大OB)

 12年には、任官を拒否した防大卒業生に対して、学費相当額を返納させる自衛隊法改正案が国会に提出されたが、成立していない。血税で幹部自衛官となる人材を育てる防大は今、岐路に立たされている。

(フリーランスライター・秋山謙一郎)