しかしその講評では「『130年の歴史を継ぐ気はあるか?』って荷が重いですよね。それ読んで『受け継ぐぞー』とは思わないんじゃないですかね」と意外な言葉。両親には効くコピーだと言いながらも、生徒が30分以上かけてたどり着いた作品を一刀のもとに切り捨てた。

 一方、筆者にはこれといって使い道のある言葉に思えなかった「2000人で……」のコピーには、「これと一緒に2000人で写ってる写真を使ったら訴求力がある」と高い評価をつけた。プロの独特な視点と、これっぽちの遠慮もない姿勢に、筆者も会場もたまげた。

 さらに2つめの課題では、冒頭で長谷川さん自身が大学時代、友人がひとりもできず、サークルをすぐ辞めたエピソードを披露したうえで「もし大学生に戻れるならサークルを作りたいですね。その時は(既存のサークルに)入るという発想しかなかったので、みなさんには自分でどんどんサークルを作ってほしいです」。豪快かつあっけらかんとした話しっぷりに、生徒たちの目はもうくぎ付けだ。

 作業は1回目同様の手順で進行し、授業終盤には各グループに1案ずつ、「帰宅ラブ」や「教授のヅラ鑑定団」、「共生♡労働」など個性的なサークルのアイデアが完成した。駆け足でエッセンスを吸収し、無事コピーを作り遂げた高揚感が、会場全体を包んでいた。

●嫌われる勇気を持て、空気が動く

 講座の講師を務めた長谷川哲士さんは、現在31歳。目先の新しい企画で注目される制作会社「面白法人カヤック」のコピー部で活躍し、今年初めに独立した。ゲームアプリ会社GREEの歩みを、真っ白な画面に端的に表現したコピー「逆風で加速せよ。」や、サントリーの「人類以外採用」などは、彼の作。整った言葉の奥に、どこか人間くささを感じさせる彼のコピーは、ときに若い世代の心を捉える。

 長谷川さんが、今回の授業で高校生に伝えたかったこととは何か? その心を知りたくて、パフォーマンスを終えた彼を訪ねた。

「彼女たちを見ていて、コミュニケーションの仕方は僕らの世代と根本的には変わらない印象を受けました。教授が『ヅラ』かどうかを検証するサークルを考えた人がいましたが、世代問わずだいたいの人が面白いと感じるかなと。」

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