それでも、決して後ろを振り向くことはしない。誰に気づかれなくてもいい。誰に認められなくてもいい。ただ、この場を使う人がキレイだって喜んでくれるだけで救われる。新津さんは、いまは十分幸せな人生を送っている、と言っていました。

 そして朝6時、夜勤を終えへとへとの姿でゴミ拾いを続けた新津さん。

「今日も、お客さまにとって幸せな1日になるといいね」

 私は、胸が一杯になりました。

「プロフェッショナル仕事の流儀」はこれまで、さまざまな分野で活躍中のまさに一流のプロの方にご出演頂いてきました。一流と呼ばれる人の多くはすでにメディアに注目され、社会的に高い評価を受けておられる方も少なくありません。でも今回改めて感じたのは、プロ中のプロは地位や名誉とは別の所にもいるということ。気づかないだけで実はもっと身近にいらっしゃるのかもしれません。そしてそういう方々が、人知れず誰かのために全力を尽くしている姿にこそ、私をはじめ、多くの人が心動かされるのではないでしょうか。新津さんに密着した1カ月、私も取材者としての姿勢を見つめ直し、まるで心が洗われていくような、充実した時間を過ごさせて頂きました。

 ロケの最終日。別れ際に、ひとつの質問をしました。

「あなたにとって、プロフェッショナルとはどんな人だと思いますか?」

 返ってきたのは、懸命に自らの仕事に向き合っているすべての人の背中を押す言葉。仕事に悩んだとき、困ったとき、つまずいたとき、いつも私を支えてくれます。

「目標を持って、日々努力し、どんな仕事でも心を込めることができる人が、プロフェッショナルだと思います」

*  *  *

 そんな新津さんは、子どもが大好きだという。理由を尋ねると、こんな答えが返ってきた。

「大人はずるい方に考えたり、ラクをしようとするでしょ。でも、子どもはやりたいことをただ素直にやっているだけ。自分が立ち止まっているな、ラクをしようとしているなと思うときは、必ず童心に返ります。私のお手本は子どもたちなんです」

 番組がきっかけになり、新津さんはセミナーや講演会にも呼ばれるようになり、大好きな子どもたちに清掃の仕事を教える機会も増えてきた。先ごろ初の書籍も出版した(『世界一清潔な空港の清掃人』新津春子著)。

 そして新津さんは、今でも笑顔できっぱりとこう言い切る。

「私は、清掃の仕事が大好きです。自分にとって大事なことがはっきりしていれば、誰が何を言っても、左右されることはありません」