東京・世田谷区の桜神宮では、インターネットを10年以上前から取り入れている。

芳村宮司は「神社は神様のいらっしゃる、清浄な『神域』ですから、実際に足を運んでいただくのに勝るものはありません」と断った上で、

「ですがお年寄りや、身体の不自由な方、それに海外生活者など、参拝に行くのが難しい人もおおぜいいるのです」

 そう考えてインターネット上で遥拝できるシステムを開設したという。

 桜神宮のホームページから「ネット遥拝」を選ぶと、飛び込んでくるのは神社の構造を模したイラストマップ。鳥居、参道、本殿……。さらにはお参りの作法の解説。2回礼をして、拍手をして、また礼(桜神宮の場合は2礼4拍手1礼)という手順を、画面上をゲームのようにクリックすることで学べるのです。

「どうやってお参りしたらいいのかわからない、という若い人も増えています。バーチャル参拝することによって予行演習し、学んでいただいて、実際の参拝につながればと考えています」(芳村宮司)

 また桜神宮では、記帳やおみくじ、絵馬の奉納もネット対応。プリントアウトできるお守りは、宮司さんによる祈願済みのものです。メールでの相談サービスも受けつけている。

「遥拝」とはそもそも、遠く離れた場所から自分の信じる神仏の方角を拝むことで、古来行われていた。特に戦場にいてお参りができない武将たちに好まれていたというだ。
 神社本庁はネット上での参拝を推奨していない。しかし桜神宮では、海外赴任中の人から、感謝のメールが届くこともある。

「たとえネット上でも、鳥居を見るとホッとする、安心感があるというお話でした。ネット遥拝はまだ新しい文化です。一般化して抵抗感がなくなっていくまでには、発信する側にも受け取る側にも、もう少し時間が必要でしょう」(芳村宮司)

 賛否両論ありながらも、宗教とネットは少しずつ融合しつつあるようだ。生活スタイルがどんどん細分化していく昨今、人それぞれの「祈り方」があってもいいのかもしれない。

(文・室橋裕和)