「基本的には耳の周辺、鏡で見えるところだけで使用してください。耳の穴に入れて――ということは想定しておりません。危ないので絶対に止めて下さい」

 耳の穴に生えている毛を剃ることも出来た理容師の高い技術は、今では「デコルテ」と呼ばれる上半身の体毛を剃る技術などにみられる。結婚式における花嫁の胸、背中の産毛を剃る技術だ。

「女性の理容師が行うことが多いです。体の見えるところのシェービングは理容師の仕事の範疇なので」(前出の全理連の担当者)

 体の見えない部分、耳の穴に生える耳毛を剃ってもらえない現状を打破したい。理容師業の所管官庁は厚生労働省だ。関係者を直撃した。

「無理に耳孔内の毛を剃らなくても……。気持ち悪いですか? 理容師さんにお願いしてできる範囲でとしか。条例で禁止している自治体もございますし。それ以上の回答は控えさせて頂きます」

 理容師さんが扱うカミソリのように切れ味鋭い回答はついぞ得られなかった。だが、厚生労働省の関係者はこう付け加える。

「私は耳の穴から飛び出た耳毛を家内に毛抜きで抜いてもらっています」

 やはり耳の穴から生えてきた耳毛を剃ってもらうことは難しそう。剃るのではなく、痛みに耐えて“抜く”しかないようだ。

(フリーランス・ライター・秋山謙一郎)