「日本一美しいのは、富山県魚津市の片貝川右岸にある東山円筒分水槽です。富山は雪解け水により水資源に恵まれているけれど、急流河川が多いので、あっという間に流れ落ちるため、きちんと配分するための設備が必要だったのではないでしょうか」

 東山円筒分水槽は直径9.12メートルで、大きなドーム型の水槽から流れ落ちる水には迫力がある。併設された階段を上ると、三つの用水に水が導かれる仕組みが分かりやすく、円筒分水巡りの初心者にはもってこいだ。近年、パワースポットとしても注目を集めている。

「国内最大級と思われるのは、岩手県奥州市にある徳水園の円筒分水工でしょう」

 奥州市胆沢平野土地改良区の担当者によると、円筒分水工の直径は24メートルで、流れ落ちる水の量は、最大で毎秒16トン。水が行き渡る農地面積は7300ヘクタールを超える。円筒分水がある周辺は親水公園として整備されている。直径と同じ24メートルの高さに水が上がる「命水(めいすい)の大噴水」を設置したところ、観光客が増えたそうだ。水源である胆沢ダムへ向かう国道397号沿いにあって分かりやすいので、こちらも初心者向けである。

 金山さんは、円筒分水の美しさや、宝探しのような面白さを強調し、「すでに廃止された岐阜県多治見市にある放射式分水装置を起点に、可知氏が考案した円筒分水がどのように全国へ伝播し、誰によって工夫されていったのかが興味深い」と歴史的背景にも着目する。

「円筒分水が登場することにより、いさかいがなくなり、その地域の歴史が変わったのです。『水を奪い合わずに分け合う』という日本ならではの考え方には深く共感できます。すばらしいローテクです」

 単なる珍風景ではない。円筒分水、聞けば聞くほど、奥深い存在である。

 記者が見て驚いたのは、富山県南砺市にある赤祖父ため池の円筒分水。金山さんによると「ホットケーキ型」に分類されるとか。まるで、円形舞台が水面に浮かび上がってきたような形である。一定のリズムで流れ落ちる水音に耳を傾けていると、心が落ち着く気がする。地域に融和をもたらし、争いを丸く収めてきた円筒分水、あなたの住む場所の近くにも、きっとあるはずだ。

(ライター・若林 朋子) 

※円筒分水ドット・コム
http://entoubunsui.com/