現在は「天然の熟成庫」としても使われる生野銀山
現在は「天然の熟成庫」としても使われる生野銀山
シュトーレンを手に坑道から出てくるカタシマのシェフ
シュトーレンを手に坑道から出てくるカタシマのシェフ
熟成前と熟成後のシュトーレン。熟成後の方がしっとりとした味わいになるという
熟成前と熟成後のシュトーレン。熟成後の方がしっとりとした味わいになるという
シュトーレンの前には、銀山内で熟成された日本酒「銀竹泉」も運び出された
シュトーレンの前には、銀山内で熟成された日本酒「銀竹泉」も運び出された
半年かけて熟成された「仙櫻」を取り出す壺阪社長(左)と広瀬栄・養父市長(養父市提供)
半年かけて熟成された「仙櫻」を取り出す壺阪社長(左)と広瀬栄・養父市長(養父市提供)

 NHKの連続テレビ小説「あさが来た」に登場し、にわかに注目されている鉱山。長らく日本の経済を支えてきたが、現在は閉山しているところも多い。兵庫県北部の但馬地方では、そんな鉱山を「天然の熟成庫」として、お菓子やお酒の熟成に利用している。

 2015年11月20日、かつては日本有数の銀山として知られた兵庫県朝来市の生野銀山の坑道内から、観光客らが見守る中、クリスマスの焼き菓子「シュトーレン」が運び出された。同県養父市の洋菓子製造販売、カタシマが15年8月に銀山内の蔵に入れ、約3カ月かけて熟成させたものだ。

 ドイツ語で「坑道」を意味するシュトーレンは、トンネルのような形をした焼き菓子で、棒状のマジパンをレーズンやイチジク、オレンジなどのドライフルーツを加えたパン生地で巻き込んで焼き上げる。ヨーロッパでは11月の最終日曜日から約1カ月間、クリスマスを待ちながら少しずつスライスして食べるお菓子として愛されており、近年、日本でも人気となっている。

 同社によると、平均温度13度の坑道内でたっぷりのバターと砂糖で覆ったシュトーレンを寝かせると、それぞれの素材の味わいが生地全体にしみわたり、甘みも増すという。

 10年に、試験的に坑道内でシュトーレンを熟成させ、経営するレストランで出してみたところ、客に好評だった。それから毎年、夏に数百本のシュトーレンを蔵入れし、秋に出して販売している。年々入れる本数は増やしているが、人気のため、12月上旬にはほぼ売り切れるそうだ。

 今年は700本のシュトーレンを熟成させた。チーフパティシエの足立晃一シェフは「今年はこれまで以上の出来」と語る。長さは約23センチで、価格は1本4320円(税込み)。店頭やオンラインショップで販売するが、予約だけで既に100本以上売れているという。

 蔵出し後は、熟成前と熟成後のシュトーレンを食べ比べる試食会も行われた。奈良県大和高田市から両親と旅行で訪れた30代女性は「熟成前はパサパサしているけれど、熟成後はしっとりとして甘い」。地元の40代女性は「熟成後の方が深い味わいがする」と紅茶と一緒に味わっていた。

 坑道内では、シュトーレンの他に、日本酒や焼酎、梅酒なども保存されており、この日は純米酒「銀 竹泉」も蔵出しされた。00年から坑道内での酒の熟成を始め、現在は五つの蔵元から保管を請け負う姫路市の酒専門店、エルデベルグ平井の平井眞二専務は「適度に寝かせるとまろやかで味のバランスの良い、コクのあるお酒になる」と熟成効果を強調する。

 また、養父市の明延鉱山でも日本酒の熟成が行われている。こちらでは、同県宍粟市の山陽盃酒造が毎年、地元の有機栽培米と氷ノ山のわき水を使い醸造した純米吟醸酒「仙櫻(せんさくら)」を、平均温度12度の坑道内の蔵で熟成させているのだ。

 地元の酒店や道の駅でのみ販売される「幻の銘酒」で、毎年5月ごろに蔵入れし、10月ごろに蔵出しされる。同社によると、低温で温度変化が少ない蔵内ではゆっくりと熟成が進み、まろやかな味になるという。壺阪興一郎社長は「香りも穏やかになり、飲みやすくておいしいお酒ができる」と話す。

 15年も10月に一升びん920本、四合びん1070本が出されたが、人気のため、品薄状態だという。価格は一升びん3700円、四合びん2300円(いずれも税込み)。しかし、あきらめることなかれ。同社は15年5月、新銘柄の純米酒の一升びん約480本も蔵入れしており、16年春に蔵出しするというのだ。気長に待って味わうお酒もいいものだろう。

 もうしばらくするとクリスマス。今年は普段とはひと味違う、お菓子やお酒を準備して迎えてみては?

(ライター・南文枝)