アインシュタインの名言に添えられた田辺誠一画伯の脱力系イラスト(本書より)
アインシュタインの名言に添えられた田辺誠一画伯の脱力系イラスト(本書より)
じゃがいものような輪郭の顔に半開きの目、髪の毛数本で表現されたアインシュタイン。画伯が添えた一言も脱力感いっぱいだ(本書より)
じゃがいものような輪郭の顔に半開きの目、髪の毛数本で表現されたアインシュタイン。画伯が添えた一言も脱力感いっぱいだ(本書より)

 公園で見かけた「かっこいい犬。」を絵に描いてネットで公開するやいなや、脱力感あふれる画風で多くの人を魅力し続けている「田辺画伯」こと俳優・田辺誠一。LINEスタンプをはじめ、ぬいぐるみ、文房具など商品化が相次ぐなど、今や売れっ子イラストレーターの顔を持つ田辺だが、この度、『夢をかなえるゾウ』(飛鳥新社)や『人生はニャンとかなる!』(文響社)で知られる作家・水野敬也とのコラボを実現させた。

『偉人たちの最高の名言に田辺画伯が絵を描いた。』(朝日新聞出版)は、水野が厳選した偉人たちの名言に、田辺画伯がイラストを描き下ろしたものだ。水野がこれまで何千冊という偉人伝や名言集を読んできた中で出合った「偉人たちの最高の一言」を水野流に意訳。その珠玉の名言を田辺が独自に解釈してイラストで表現し、偉人の似顔絵も添えている。偉人伝や名言集というと、とかく「とっつきにくい」イメージがあるが、田辺のイラストがそうした印象を払拭している。

 例えば、相対性理論を発見した20世紀最大の物理学者アインシュタイン。本書では、「私は天才ではない。一つのことに、人より長く、辛抱強く取り組んできただけだ」という彼の素晴らしい言葉が紹介されているが、そんな偉人中の偉人であるアインシュタインの名言に添えた田辺のイラストは、愛犬に手を噛まれながらも辛抱強く「お手」を教え続ける男の子の絵。そして似顔絵の方は、じゃがいものような輪郭の顔に半開きの目、髪の毛数本。いずれも、何とも脱力感あふれるイラストに仕上がっている。

 そして、もうひとつ極め付けは、名言に添えられた「かっこいい犬。の名言4コマ」だ。これは偉人の言葉を田辺が4コマ漫画でシンプル(雑)に表現したもの。たとえば、イギリスの登山家・エドワード・ウィンパーの「山に登りたければ登るといい。だが、このことは覚えておいてほしい。いくら勇気や力があっても、慎重さを欠いたらすべてが無になるのだ」という名言に、田辺は、順調にドミノを並べていたかっこいい犬。が、おならをしてしまったがために、すべてが水の泡になってしまう独特な切り口で名言を表現。この4コマが、名言をより「身近なもの」に感じさせてくれている。

 水野のわかりやすい説明と田辺のゆるいイラストが融合し、名言集なのに思わずクスッと笑いがこみ上げる本書。水野の名言解説に対する「田辺画伯の一言」もズレているようで実は深い。一見すると脱力系の本だが、約1年かけてじっくり描き上げた力作だ。新しいタイプの名言集として、偉人たちの最高の名言と読者とを結ぶ“最高の懸け橋”になるのではないだろうか。