明確なストーリーがない作品でも要約は可能です。フランス文学の『嘔吐』は、主人公ロカンタンの「存在することに対するむかつき」がテーマの作品です。まずそのテーマをみつけたら、次に要約するための糸口を見付けます。この作品は、「伝記を書こうと思っていたロカンタンが、伝記はやめて小説を書くことにした」という内容の文章で終わるのですが、なぜ「伝記」ではなく「小説」を書くことにしたのか? この問いに答えるように要約していくと、この小説の肝を外さずに要約できます。

 そのような視点で文学作品を見ていくと、カフカの『変身』が実は小津安二郎の『東京物語』と同じテーマの作品であったことに気が付いたり、『白鯨』が単なる冒険小説ではなく「探究の物語」であることに気が付いてくるはずです。

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 なるほど、要約しながらの読書は、要約力を磨くための訓練になるだけでなく、その作品のテーマをより深く理解する助けにもなりそうだ。秋の夜長に、読書で地力をつけるのも悪くないかもしれない。