シリア戦で好守をみせた宇佐美貴史(撮影・六川則夫)
シリア戦で好守をみせた宇佐美貴史(撮影・六川則夫)

 日本がサッカーW杯アジア2次予選の“最初の天王山”を制した――日本代表は10月8日、中立地のオマーン・マスカットで、シリア代表を3-0で破り、E組首位の座を奪還した。

 3連勝で勝ち点9のシリアと、2勝1分けで勝ち点7の日本。シリアは引き分けても首位の座をキープできる。日本もまた、最悪引き分ければ、来年3月のホーム勝利で逆転できる可能性を残していた。

 このため、前半戦はボクシングで言えば、ジャブの応酬のような試合展開だった。日本はボールポゼッション(支配率)で上回ったが、リスクを冒して攻めることはしない。主導権を握りながらも、決定的なチャンスは少なかった。ハリルホジッチ監督が提唱する「タテに速い攻め」も、パスカットによる相手のカウンターを警戒して、ほとんど見られなかった。唯一の変化と言えば、ボランチの長谷部誠と山口蛍が積極的に攻撃参加していたこと。これは香川真司と原口元気がほとんど機能していなかった裏返しかもしれない。

 ところが後半に入ると、日本は「タテに速い攻め」をみせる。まず10分、長谷部が岡崎慎司にロングパス。これがペナルティーエリアでの反則を誘い、本田圭佑のPKで先制点を奪う。25分には、右FKから素早く展開し、前半は機能していなかった香川が鮮やかなドリブルで突破し、岡崎の追加点をアシスト。さらに43分、本田のヒールパスから交代出場の宇佐美貴史がゴールを決めて、勝利を決定づけた。

 もっとも感心したのは、後半23分の宇佐美がみせた守備だ。シリアのカウンターに対して、自陣深くまで戻り、相手のクロスをカットした。これまでは守備に対する意識が低かった宇佐美だが、相手の突破を阻止する守りをみせてくれた。

 ハリルホジッチ監督は、FW陣にも守備を求めているのではないか。これまでの選手起用を見ると、試合途中にFWの3選手を代えることが通例だった。その理由は、相手がアジアの格下相手であるほか、日本はDFに比べてFWの人材が豊富であるためだろう。逆説的には、GKやDFに人材がいないという皮肉な現状かもしれないが。

(サッカージャーナリスト・六川亨)