この様子を知ってか知らずかフロント係男性は「まあ、“ふたりのための場所”ですから……」と小声で呟いた。

 指定された部屋に向かうと、ホテルというよりもマンションかアパートの雰囲気に近い。築30年くらいの集合住宅によく用いられている鉄製の重たいドアは、住居や事務所といった感じだ。

 部屋に入ると、そこはたしかにフロント係が言うように、「ふたりのための場所」といった内装だ。ユニットバス、トイレにはビジネスホテルに勝るとも劣らないアメニティーグッズが用意されていた。Wi-Fiも使える。仕事目的での利用にも十分耐えられそうだ。なるほど、ビジネスパーソンが昼間ひとりで利用するのもわかる。

 ただ気になる点もあった。部屋は消臭をしているのだろうが、たばこの臭いがこびりついている。嫌煙家には、この環境はかなりキツいかもしれない。

 とはいえ、新橋駅から歩いて数分以内という好立地で、宿泊に限れば都心のビジネスホテルの半値以下で利用できるのは大きな魅力だ。新橋や六本木にあるレンタルルームで宿泊経験がある、大阪からやって来たというビジネスマン(48)はこう話す。

「東京に出張して日帰りするかそれとも泊まるか。どうしても予定が立たないこともある。そんなとき、かつてはカプセルホテルを利用したが、ここだとPCやスマホも自由に使えない。重要書類の管理にも不安がある。レンタルルームなら、その辺りがクリアされているのがありがたい」

 このレンタルルーム、なぜ近年になって急増しているのか。大手金融機関不動産担当者は、その背景についてこう語る。

「築年数の古い雑居ビルの空き室を埋めるというニーズに合致したのが、この『レンタルルーム』です。空き地のコインパーキングと同じスキームですね。都市部では、今後、増えていくでしょう」

 需要のない雑居ビルの空き室を利用したニッチ・ビジネスともいえる。そのリーズナブルな価格設定と、雑居ビルという見た目から、男女の“密会”にもってこいという事情もあり、ビジネスパーソンの1人利用よりも、今では、客の多くは、「男女のカップル利用のほうが圧倒的に多いとみている」(ラブホテルチェーン幹部)という。

 どうやら、レンタルルームの勢いは当面衰えることはなさそうだ。

(フリーランス・ライター 秋山謙一郎)