話を聞かせて頂くので、謝礼代わりに筆者が持参した缶ビール6本をこういって辞退する。やむを得ず、近くにあった自動販売機でリクエスト通り、お茶やウーロン茶を買い、それを手渡した。

「ブルーシート内の生活は、正直、居心地いいですよ。食事も、普段は弁当を買ったり、仲間とバーベキューしたり、鍋したり。楽しいですね。キャンプみたいな感じです」

 現在、55歳というホームレス男性のひとりは日々の生活をこう明かす。そこには悲壮感のようなものは一切ない。明るく、楽しく、ホームレス生活をエンジョイしているようにみえる。

「この夏は暑かったですね。幸い、自家発電機もあるのでブルーシート内でクーラーをかけて寝てました。テレビもみられるし。スマホも持っているので生活に不自由はありません。ただ寝泊まりするのが公園のブルーシートというだけの話。郵便物も局留めにしておけば受け取れる。特に困ったこともありませんよ」(55歳男性)

 ブルーシート内の“ご自宅”にお邪魔すると、確かにベッドが置いてある。アイロンかけされた作業着がハンガーに整然とかけられている。整理ダンスには肌着や普段着が入っているという。洗濯は近くにあるコインランドリーでしている。

「日雇いの仕事で建設現場に行く際、作業着は必需品です。できれば清潔なものを身に着けたい。だからアイロン掛けはかかせません」(同)

 ある年配のホームレス男性のひとりは、住民税はもちろん、国民年金も国民健康保険もきちんと納付していると話す。だが諸事情から家を出て公園内のブルーシートで寝泊まりする時間が長いという。

「行政のほうからはたまに立ち退くよう注意されます。警察からは何もいわれませんね。とくに住民の方とのトラブルもないですし。そのお礼の意味もあって公園や公衆トイレの清掃はできる範囲でお手伝いさせて頂いています」(62歳男性)

 話を聞いたホームレス男性たちの身なりは、きちんと洗濯された清潔感にあふれ、こざっぱりしたものだ。

「風呂は周辺の銭湯をあちこち廻ってます。あまりに居心地がいいので、ここから離れられない。ただそれだけなんですよ」

 来年、60歳になるというホームレス男性は、年金を受給できるようになれば、この生活からの“引退”を考えているという。

 東京都関係者によると、「いまのところ公園に寝泊まりするホームレスへの立ち退き要求を厳しくする予定はない」と語る。だが、ホームレスたちは、それも東京オリンピック開催前には立ち退き要求が厳しくなるとみている。

「あとしばらく、この居心地いい空間を保てれば、十分ですよ。ずっとここに居る訳にもいかないので。ちょうどいい潮時かもしれません」(58歳男性)

 “引退”できるホームレスはいい。しかし引退できないホームレスたちもいる。そのホームレスの受け入れ先は行政は考えているのだろうか。東京オリンピック開催前の今、手を打つべき課題である。

(フリーランス・ライター 秋山謙一郎)