ここでは、全国で2両しか残っていない鉄道郵便車「オユ10 2565」を見学できる。郵便物を運ぶこの形式の列車は、1957年から71年までに約70両が製造された。84年ごろまでに大半が廃止されたが、奇跡的に残った車両が、旧郵政省からのと鉄道に譲渡されたという。

 車内は、郵便物を仕分ける棚などがあり、往時の雰囲気を醸し出している。また、車内の専用ポストに郵便物を投かんすると、地元の郵便局で、オユ10を描く特別日付印(小型印)を押印して届けてくれるのだ。

 そしてゆったりコースでは、沿線3カ所のビュースポット、「深浦漁港」と「ツインぶりっじのと」、ボラ漁のため、海上に組まれた四角錐形のやぐら「ボラ待ちやぐら」で停車、または徐行運転する。車窓には、世界農業遺産でもあるのどかな風景が広がり、心が和む。

 専任アテンダントのゆったりとしたアナウンスも心地よい。沿線の見どころなど、地元出身者でも改めて知ることが多く、驚いた。アテンダントの角間裕子さんは「間違った情報をお伝えしてはいけないので、時事ネタや新聞チェックは欠かせません」と話していた。

 そうこうするうちに、列車は終点の穴水駅へ。駅手前のトンネルでは、従業員手作りのイルミネーション、ホームでは、地元の女性たちが踊りを披露して迎えてくれた。

 のと鉄道の乗客数は、少子高齢化や過疎化で沿線の人口が減少、01年と05年に穴水駅以北の路線の廃止で、ここ数年は65万~70万人と、約20年前の5分の1以下にまで落ち込んでいるという。今年4月から運行を開始したのと里山里海号は、観光客を誘致し、乗客を増やそうと企画された、初の観光列車だ。

 同社によると、運行開始後のゴールデンウイークには7割近くの乗車率を達成、6月は約6割と下がったものの、それなりに人気だという。

 豪華寝台列車のような派手さはないが、地元の人々の優しさに触れながら、素朴で落ち着いた列車の旅が楽しめるのと里山里海号。9月のシルバーウィーク、金沢まで行くついでに、足を伸ばしてみてはいかがだろうか。

(ライター・南文枝)