おもむろに池の中から姿を現すカッパ。手には尻子玉を持っている
おもむろに池の中から姿を現すカッパ。手には尻子玉を持っている
カッパの出現時間になると、どこからともなく人が集まってくるのだ。手前で見守るのは兄の河太郎
カッパの出現時間になると、どこからともなく人が集まってくるのだ。手前で見守るのは兄の河太郎
一見のどかな辻川山公園だが、子どもたちがのぞき込む先には……
一見のどかな辻川山公園だが、子どもたちがのぞき込む先には……

 川や沼に住み、通りがかった人たちを水の中に引きずり込み、「尻子玉」を抜き取ってふぬけにしてしまうなどの伝説がある妖怪、カッパ。兵庫県南部の福崎町に、カッパが出現するスポットがあるという。福崎町西田原にある辻川山公園だ。

 確認のため、2015年7月下旬に現地を訪れた。一見すると、ただののどかな公園だが、福崎町出身の民俗学者、柳田國男の生家近くにある園内の池では、定期的にカッパが現れたり消えたりするらしい。見ると、池のそばにも、頭の皿がからっからに乾いたカッパがしゃがんでいる。

 カメラを構えてしばらく待つと、水面からぶくぶくとした泡が出てきた。これは、カッパが現れる前触れか?!と思いきや、すぐに元通りになった。本当に出てくるのか。さらに数十秒待ったところ、おもむろに、水の中からカッパが現れたのである。

 赤茶けた体に生気のない目、しわしわの手には「尻子玉」を持ち、口の中に入れようとしている。これは、薄気味悪い。あっけに取られていると、10秒もしないうちに水の中に沈んでしまった。

 えっ、もう終わり? ぼう然としていると、近くにいた子どもが「あと2回現れるんやで」と得意げに教えてくれる。気を取り直して水面に目を凝らすと、出ました、2回目。さっきまで人気のなかった池の周りには、親子連れやサラリーマン風の若者、近所の人たちがいつの間にか集まっていた。カッパが現れるたびに、「うわ~」となんとも微妙な歓声が上がり、スマートフォンやカメラのシャッターが切られる。

 このカッパは2014年2月、柳田が自身の人生を回顧した著書「故郷七十年」に登場するカッパをモチーフに、町が造形作家らと共同で制作したもの。もともと近くの市川に住んでいたカッパの兄弟が、いたずらをし過ぎて誰も川へ来なくなったのを後悔し、柳田先生に謝りに公園にやって来たという設定なのだとか。

 兄の河太郎(がたろう)は池のほとりで、弟の河次郎(がじろう)は池の中で、毎日毎日柳田先生を待ち続けた。そして、とうとう河太郎は頭の皿の水がなくなり、柳田先生が渡ってくるであろう橋の方を向いたまま動けなくなってしまった。河次郎は池の中にいたため、今でも定期的に出てくるそうだ。現在の河次郎は二代目で、初代は尻子玉を持っていなかったという。

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