ほしよりこ1974年生まれ。インターネット上で連載されていた『きょうの猫村さん』が人気を呼び、2005年7月にマガジンハウスより単行本化。現在7巻まで発売中。そのほかの著書に、『山とそば』(新潮文庫)、『僕とポーク』『カーサの猫村さん』(共にマガジンハウス)など
ほしよりこ
1974年生まれ。インターネット上で連載されていた『きょうの猫村さん』が人気を呼び、2005年7月にマガジンハウスより単行本化。現在7巻まで発売中。そのほかの著書に、『山とそば』(新潮文庫)、『僕とポーク』『カーサの猫村さん』(共にマガジンハウス)など
新生賞を受賞した大今良時さん。アトム像を胸に、この賞に見合うようなマンガをこれからも描いていきたいと、今後の抱負を述べた
新生賞を受賞した大今良時さん。アトム像を胸に、この賞に見合うようなマンガをこれからも描いていきたいと、今後の抱負を述べた
贈呈式後に行われた記念イベントで対談をする伊藤理佐さんと吉田戦車さん
贈呈式後に行われた記念イベントで対談をする伊藤理佐さんと吉田戦車さん

 今年も個性的な面々が受賞した第19回「手塚治虫文化賞」(朝日新聞社主催)。5月22日に東京・築地の浜離宮朝日ホールで開催された贈呈式では、各受賞者への賞の贈呈とスピーチが行われた。『逢沢りく』(文藝春秋)でマンガ大賞に輝いたほしよりこさんは、胸元に白鳥のブローチをあしらった黒いワンピース姿で登場。ほしさんがイベントで一般読者の前に姿を見せるのはデビュー以来初めて。会場には、ほしさんの姪っ子と家族も駆けつけ、喜びをわかちあった。

【手塚治虫文化賞贈呈式・記念イベントの写真はこちら】

 緊張の面持ちでアトムのブロンズ像を手にしたほしさんは、「緊張してしまって何も言えなくて……。本当にありがとうございます」と感謝の言葉を述べた。

 当日配られた公式パンフレットには「数ある素晴らしい候補作品の中で、賞をいただけたことを、ありがたく、とても畏れ多く思います。『逢沢りく』は、私の最善を尽くした作品です。自分は他の人とちょっとちがうやり方で描き続けてきました。その方法について、迷ったことは一度もありませんでしたが、それが世の中に受け入れられるかどうかということについては常に不安がありました。今は自信を持って、この物語に向って全力を出し切ったといえるし、終了したこの作品を清々しい気持ちで眺めることができます」と、喜びのメッセージを寄せている。

『聲の形』(講談社)で新生賞を受賞した大今良時さんは、小学生の頃、教室にあった手塚治虫の『ブッタ』を夢中で読んだことを話し、「私も頑張って、自分が亡くなっても手塚先生のように“残る”マンガを描いていきたい」と、時に涙声になりながら話した。

 短編賞を受賞した吉田戦車さんは、雑誌の片隅で4コマやイラストを描き始めて、今年でちょうど30周年だという。受賞スピーチでは、「手塚先生のマンガは、小学校の時にリアルタイムで『ブラックジャック』『三つ目が通る』に出会うことができました。その頃の自分に今のこのことを教えてやりたいなという気持ちが、マンガ家になってから今回ほど強く思ったことはありません」と、感慨深げに語った。

『小さな恋のものがたり』(学研パブリッシング)で特別賞を受賞したみつはしちかこさんは、「初めて『小さな恋のものがたり』を見ていただいたのは、手塚治虫先生でした。その時に、先生に褒めていただいたことを勇気と元気にして、出版社に持ち込みました」と手塚治虫との思い出を語った。また、みつはしさんは、長年苦楽を共にした担当編集者の山崎園子さんへの感謝の言葉を述べ、会場から温かい拍手が送られた。

 式後の記念イベントでは、吉田戦車さんと、9年前に『女いっぴきふたり』などで同じく短編賞を受賞している妻の伊藤理佐さんによる記念対談が行われた。対談で二人は、家にアトム像が2体になったと話し、「片方をウランちゃんに改造するというのはどうかな」と冗談を交え、会場を沸かせた。二人の息の合った爆笑対談の模様は、dot.で公開中だ。

 贈呈式から1カ月近く経った今、ほしさんに改めて「記念対談を振り返って思うこと」を伺った。

「記念対談がとても面白くて、ずっと笑っていました。(吉田さんと伊藤さんが)私の姪にも話しかけてくださったりして、この日を楽しみに上京して来た家族もすごく喜んで、当日のことは思い出に残っているようです。私は非常に緊張していて、思っていたことはほとんど話せなかったのですが、もしこの夫婦対談が授賞式の前にあったらかなり緊張がほぐれたんじゃないかと思いましたが、きっとそれでも胸がいっぱいだったと思います。

 少女時代から何度も繰り返し読み続けた『小さな恋のものがたり』のみつはしちかこ先生と、多感な時期に強い影響を受け続けた吉田戦車先生と同じ場に立つ畏れ多さでふるえました。それでもみつはし先生も吉田先生もお優しくて、お会いできた喜びは大切な思い出です。手塚眞さんが『作品は作者がいなくなったあとも残る』ということをおっしゃったことと、若い大今良時さんが挨拶で『自分がいなくなっても残る漫画を描いていきたい』とおっしゃったことが、地続きになっているようで、ずっと先の世代の漫画家の人たちに作品が影響を与え続けるであろう予感がしました。

 授賞式が終わった後、8歳の姪と4歳の姪が授賞式ごっこを何度もしていたのですが、4歳の姪が何度も私のマネをして『ちんちょうちて(緊張して)なにもいえなくて、そいで、ありがとうごじゃいまちた!』というので、どんなに緊張してももっと立派なことを話すべきであったとその度しょんぼりするのでした。ありがとうございました」(ほしよりこ)

 自分らしい描き方を貫いた作品で、多くの読者を魅了しているほしよりこさん。柔らかいタッチで描かれた個性の強いキャラクターは、ほしさんの人となりに通じている。全力を出し切ったという『逢沢りく』の次にどんな物語が始まるのか、これからますます目が離せない。