「虚像」を立ちあげ、「本当の自分」を隠そうとする小泉今日子は、バブル時代の「主流の考えかた」からすれば「異端」です。髪を短くしたり、元は「不良」だったことを公言したり――アイドル時代の小泉今日子は「自然体」が特徴でした。このころ、「自然体」と「ありのまま」が必ずしもイコールでないことに気づいていていた人はほぼいません。「自然体」が売りものの小泉今日子は、生き生きと「本当の自分」をアピールしていると思われていました。

 次つぎと過激な企画に身を投じれば、新しい「小泉今日子の虚像」が絶えまなく立ちあがります。それが当人にとって快感だったから、歌やグラビアでの大胆な試みにも尻ごみしなかった――今では伝説になっている「バブル時代の小泉今日子」には、そういう側面もあったはずです。

 1980年代から90年代にかけて若者だった世代とちがい、現代の二十代は「本当の自分」に強くこだわりません。このため、ファッションや読んでいる雑誌の傾向で、青年層を分類することが難しくなっています。ふだんはコンサバ系の恰好をしているのに、ときどき思いついてゴスロリを着る――そういうライフスタイルが、「当たりまえ」になりつつあります。彼らにとっては、「いろいろな自分」にその時どきで変わるのが「自然体」なのです。

「自然体」だが「ありのまま」ではない――「異端」だったアイドル時代の小泉今日子は、現代の若者の先駆けといえます。若き日の小泉今日子が何をしようとしていたのか。その真相は、「自然体」と「ありのまま」の区別が見えやすくなった今になって、始めて見えてくるのかもしれません。

※「小泉今日子に見る「才能」の意味」につづく

※助川幸逸郎氏の連載「小泉今日子になる方法」をまとめた『小泉今日子はなぜいつも旬なのか』(朝日新書)が発売されました

注1 「斉藤由貴 インタビュー」(「季刊 リュミエール」第六号 筑摩書房 1986)
注2 「小泉今日子インタビュー」(「キネマ旬報」1986年12月下旬号 キネマ旬報社)

助川 幸逸郎(すけがわ・こういちろう)
1967年生まれ。著述家・日本文学研究者。横浜市立大学・東海大学などで非常勤講師。文学、映画、ファッションといった多様なコンテンツを、斬新な切り口で相互に関わらせ、前例のないタイプの著述・講演活動を展開している。主な著書に『文学理論の冒険』(東海大学出版会)、『光源氏になってはいけない』『謎の村上春樹』(以上、プレジデント社)など