渦巻きではなく、特異な成長を遂げたアンモナイトの化石
渦巻きではなく、特異な成長を遂げたアンモナイトの化石
渦巻きの殻のアンモナイトの化石
渦巻きの殻のアンモナイトの化石
細かい壁で仕切られた殻の内部
細かい壁で仕切られた殻の内部

 北陸で大人気の観光スポット、福井県立恐竜博物館で一風変わった期間限定のミニ展示が開催されている。テーマは「不思議なアンモナイト~君たちこれからどうするの?~」。ユニークな形の化石を前に、アンモナイトとの時空を超えた対話をどうぞ。

 まずはアンモナイトについておさらいを。今日、その存在は化石でしか知ることができない。4億年以上前の古生代に出現し、海に幅広く分布して繁栄、6600万年前の中生代末に絶滅した。分類としては頭足類、つまりイカやタコの仲間とされ、特に短期間に出現・絶滅した種類は時代を特定する「示準化石」として重要とされている。

 アンモナイトは巻き貝のような渦巻きの殻をしているが、巻き貝とは違い、殻の内部は細かく壁で仕切られ、空洞が連なる上部は、浮きの役割を果たすのが特徴だ。下部は居住スペース。イカやタコに似た生物の体が入り、海中でのバランスが保たれている。

 展示を企画した総括研究員の後藤道治博士によると、きれいな渦巻きを描いた殻のものを「優等生」とすれば、「異常」と思える巻き方をしているのは「アウトサイダー(異端者)」である。今回の展示は後者を主役に据えた。後藤さんは、展示の狙いをこう話す。

「変わった形状だからこそ、『これからどうなるのか? ほかに変わったものはないか』などと気になり、この気づきこそが学問や研究の出発点になる」

 目玉は、モロッコで発見された中生代白亜紀前期の「トクサンキロセラス」の化石2点である。上部はゼンマイの新芽のようなきれいな渦巻きで、茎に相当する部分は垂直に伸びた後にUの字を描いて戻り、渦巻きの手前まで伸びている。そこで疑問が生まれる。「君たちこれからどうするの?」と……。

 自分の殻を破るのか、伸びる方向を変えるのか、成長を止めてしまうのか―。選択肢は三つだ。このように聞けば、組織の中で生きるサラリーマンの悲哀か、自己矛盾を抱えて苦悩する若者の悩みのように聞こえてくる。

 実際、「アンモナイトの行く末を見届けたい」と思う気持ちは多くの研究者を突き動かしたようだ。しかし、モロッコで発見された同時代・同種類のアンモナイトの中で、自分の殻を破ったり、伸びる方向を変えたりしたものはない。アンモナイトは1億2700万年前からずっと悩み続け、成長が止まったままで化石になったのではなかろうか。

 同博物館のアンモナイトの展示は一貫して「生きざま」を展示している。そこには同じ生き物として血の通った温かいものを感じる。摩訶不思議な形のアンモナイトと向き合っていると、「あなたこそ、どうするの?」と問われているような気がしてくる。

(ライター・若林朋子)