そして圧巻だったのは、89分の香川のプレーだ。ボールをキープしてタメを作るとノールックで右足アウトサイドを使ったスルーパス。抜け出した宇佐美はGKの動きを見極めて右スミを狙ったが、これは惜しくも右ポストに当たって GKがセーブした。

 ハリルホジッチ監督は就任会見の席で「2~3年前はもっといい選手だと思っていた。そのために勇気づけることが必要」と語ったのは香川を指していたに違いない。その香川が、最近はドルトムントで復調傾向にあるが、この日のプレーを見るとかつての輝きを取り戻したと言ってもいい。

 この日の勝利に指揮官は、「大きな一歩を踏み出した。本当に素晴らしい試合をした。美しいコンビネーションもあった。勝利とクオリティーを褒めたい。満足したゲームだった」と手放しで称賛していた。初陣を完璧な勝利で飾れたこと、それも「本田、香川、内田(篤人・シャルケ)のクオリティーは知っている。だから他の選手に機会を与えた」ことでの勝利に手応えを感じたのだろう。

 31日のウズベキスタン戦では、「まだ十分に知らない選手にチャンスを与えたい。テレビでしか見ていない選手を生で見てみたい。今回プレーしていない選手が全員プレーすると思う」と明言していた。その真意は、6月から始まるW杯アジア2次予選に向けて23人に絞り込むラボ(実験場)でもある。31日に起用される選手たちが、どんなハーモニーを奏でるのか。競争激化を予感させるハリル・ジャパンの船出でもあった。

サッカージャーナリスト・六川亨)