新潟市で95頭のホルスタインを飼育しているMoimoiファーム
新潟市で95頭のホルスタインを飼育しているMoimoiファーム

 トマトケチャップ、食用油、パスタ、カップ麺、カレールウ、魚介の缶詰。これらの食材は、この春にかけてメーカーから値上げが表明されたり、すでに値上げをされた商品だ。背景には、円安による輸入原材料のコスト上昇、世界的な穀物価格高騰があると考えられている。輸入小麦は、政府が製粉会社に売る主要5銘柄平均の価格を4月から3%値上げする予定だ。輸入小麦の価格はこの3年で2割強の上昇になるという。

 牛乳やヨーグルト、バター、チーズなどの乳製品も値上げだ。牛乳やヨーグルトなどに使用される生乳の価格は4月から1kgあたり3円、他の乳製品に使われる生乳も値上げが決まった。乳業メーカーはこれに包装資材や物流費などの上昇コストを加えるため、牛乳は出荷ベース2%~5%程度の値上げになる。

 総合マーケティング支援を行なうネオマーケティングが、今年2月に全国の女性500人を対象に実施したWebアンケートでは、牛乳の価格が「安い」「とても安い」と回答した人が28.0%、「高い」「とても高い」は20%で、安いと感じている人が多い傾向だ。また、牛乳が国産であることに「とても意義がある」「意義がある」と感じている人は93.4%。その理由として「安心」「安全」が上位を占め、98.2%が日本の酪農や酪農家を応援したいという意向を示している。

 農林水産省の食料需給表によると、2013年度に国内で消費された飲用向け生乳はすべて国産である。自給率は100%だ。それなのに牛乳の価格を値上げしなければならないのは、乳牛が食べる飼料の価格上昇が大きな原因だ。(一社)中央酪農会議によると、トウモロコシや乾牧草など飼料の多くは輸入に頼っており、生乳の生産にかかる流通飼料費は2013年までの過去4年間、上昇傾向にあるという。  中央酪農会議のニュースレターでは、酪農家が直面する状況も具体的に伝えている。

 新潟市で95頭のホルスタインを飼育している株式会社Moimoiファームでも飼料はすべて輸入品で、この1年間で調達価格が1割~1.5割も値上がりした。生産コストの約半数を占める飼料費の上昇は、多くの酪農家がかかえる経営不安定の要因といえそうだ。また、酪農経営の環境改善には値上げだけでは解消できない課題も多い。若年層の就労者不足や後継者問題など、次世代の担い手に引き継ぐ方策がなかなか見いだせないのだ。

 もちろん、酪農家も手をこまねいているわけではない。家族経営が多い業界で、Moimoiファームは2年前に農業生産法人化し、農業大学校卒業生や未経験者を含む若いスタッフを採用、なんとかこの苦境を脱しようとしている。法人化によって補助事業の助成が受けやすくなるため、そのお金で搾乳ロボットを導入、近隣の廃業牧場の吸収を図った結果、飼育頭数を大幅に増やし生乳生産量も増加したという。そうは言っても、飼料は高い。4月以後の生乳の値上げで、経営の厳しさは緩和されるとのことだが、まだまだ不安定な状況は続きそうだ。

 安倍内閣は、「長く続いたデフレを脱するには、一定の物価の上昇が必要」という立場だが、食品の値上げが家計を直撃するのは確かだ。一方で単純に値上げが悪いとは言い難い。生産者側は、国産の食材を生産したいのに、そのためには価格の不安定な輸入飼料に頼らざるを得ないという苦労を抱えているのが実態だからだ。