バヒド・ハリルホジッチ監督
バヒド・ハリルホジッチ監督

 居並んだテレビカメラは22台。駐車場にはテレビ局の中継車が待機して、午後5時過ぎからの会見をライブで放映した。3月13日、都内のホテルで行われた、日本代表のバヒド・ハリルホジッチ監督の就任会見は、過去に例を見ないほど大勢の報道陣が詰めかけ、その注目度の高さをうかがわせた。

 約1時間にわたって熱弁をふるったハリルホジッチ監督だが、特に興味深かったのは日本サッカーと選手に言及したコメントだった。

「ブラジルやバルセロナのようなサッカーをしたいという人がいるかもしれないが、われわれは日本代表なので、日本代表としての戦い方をしたい」

 このコメントを聞いた瞬間、オシム元監督のことを思い出した。ハリルホジッチ監督と同郷(旧ユーゴスラビア。現ボスニア。ヘルツェゴビナ)のオシム元監督が日本代表の監督に就任した2006年7月21日、最初の会見で次のように述べていた。

「奇妙に聞こえるかもしれないが、私は最初に日本代表チームを"日本化"させることを試みる」

 オシム元監督は"日本化"について、「日本人の敏捷性やアグレッシブさ、個人技術の高さをチームのために生かすこと」だと説明していた。同様に、ハリルホジッチ監督も日本人は「厳格さ、規律、真面目さなどフットボール界において大事なものを兼ね備えている」と評価したのだ。ルーツが同じだと、発想も似ているのかもしれない。

 そしてまた、新監督は次のようにも述べていた。

「今の日本代表をさらに高いレベルにすることは可能だ。そのために必要なことが私のノートには書いてある。もっとよいプレーができることを伝えたい」

 このコメントを聞いて思い出したのが、同じフランス国籍のトルシエ監督だった。トルシエ監督は自身の指導法について、「まだ私の500ページある教科書の3ページしか終わっていない」と繰り返していた。しかし2002年の日韓W杯で日本をベスト16に導いたものの、トルシエ元監督の教科書の500ページ目を知る日本人は誰もいなかった。

 その点、ハリルホジッチ監督のノートには「素早く攻めることがすべてではない。適正なポジショニングの話もしないといけないし、スピードだけでなくリズムの変化や、チームとしての動きのフェイントなどを、選手時代の経験も踏まえて教えて生きたい」と、具体的な方法が書かれているようだ。

 そして、ハリルホジッチ監督は、ブラジルW杯やアジア杯の全試合をチェックしているとしたうえで、こう語った。

「選手はクオリティーをみせたが自信を失っている。何人かは自分自身に自信を失っている。2~3年前はもっとよい選手だった。よいプレーをしたことを忘れてはいけない。個人的な問題を抱えているときもある。その時は個人的に話をしたい」

 具体的な名前こそ出さなかったものの、「2~3年前に比べて自信を失っている」のは香川や本田、長友といった海外組の主力選手を指していることは間違いない。彼らへのサポートを約束しながらも、「メンバーは毎回、変わるかもしれない。確定している選手もスタメンもいない。まずはプレーしてもらう。国内組の選手も国外組の選手も同じだ」と、白紙からのスタートを強調していたことも印象的だった。

(サッカージャーナリスト・六川亨)