大切なのは子どもが面白さを感じること(撮影/品田裕美)
大切なのは子どもが面白さを感じること(撮影/品田裕美)

 赤ちゃんのときから早期教育を始めたらどうなるの? 反対に、始めなかったらどうなるの? 先が見えないからこそ、悩む人も多いのではないでしょうか。早期教育の追跡研究を行ってきたお茶の水女子大学名誉教授・内田伸子先生が、「AERA with Baby 2015年4月号」の大特集「才能を伸ばす 0~3歳の超!早期教育とは」で、ちょっと先を見通す研究結果をお話してくださいました。

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 子どもの育ちに教育がどう影響を与えるのか。早期教育に関する研究を長年、調査してきた内田伸子先生は、「早期教育そのものは悪いことではありません。ただし、始める時期や内容によっては、赤ちゃんのためにならないばかりか、有害となるケースもあります」と注意を促します。

 内田先生は、日本・韓国・中国・ベトナム・モンゴルの3、4、5歳児(各国3千人)を対象に、読み書き能力や語彙能力などを縦断的に測定する調査を行いました。

 なかでも、単語の数やその使い方を見る「語彙能力」は、言葉で表現したくなるような内面の育ちがあるかを測る尺度として、重要視しています。

「調査の結果、習い事をしている子のほうが、していない子よりも語彙得点が高かったのです。意外なことに、学習系の習い事をしている子と、芸術・運動系の習い事をしている子の語彙得点は同点で全く差はありませんでした」

 つまり、勉強系の習い事をしたからといって、必ずしも語彙力の発達にはつながらないことが、この研究からわかります。

 内田先生は、教師やほかの子と関わるなど、日常とは違う経験をしたことが、語彙獲得にプラスに働いているのではないかと分析します。

「3歳ごろまでの習い事は、その内容が身につくことを期待せず、楽しく多様な経験をさせてあげるような気持ちでいるといいですね」

 ちなみに、読み書き能力は、勉強系の習い事をしている子のほうが得点は高かったものの、小学1年生の6月頃には、差がなくなることがわかっています。

 また、乳幼児期の自由な遊びが、子どもの語彙力を育てることもわかっています。

 内田先生は、小学校1年生の勉強を先取りしている一斉教育型の幼稚園や保育園の子どもと、子どもの主体性を大事にする保育や自由遊びが多い幼稚園・保育園の子どもの読み書き能力や語彙力を比較研究しました。

 すると、いわゆる勉強を教えず、自由遊びが多い子どものほうが、語彙力が高いという結果が出たのです。

「子ども中心の保育(自由保育型)だと、自分が興味のあることに集中して遊べるので、その遊びに関する語彙をどんどん増やすことができます。一方で一斉教育型では、細かく決められた時間割をこなさなければならないので、ひとつのことに対する興味・関心が育たず、語彙獲得の機会も少なくなってしまうからでしょう」

 体育の時間を設けている幼稚園に通う子どもは、体育の時間を設けていない幼稚園に通う子よりも運動能力が低く、運動嫌いが多かったという興味深い調査もあります。

「同じ運動を繰り返したり、説明を聞く時間が多かったり、子どもが面白さを感じられないことなどが理由として挙げられます」

 それらを踏まえると、子どもの習い事も、一斉教育より、遊び感覚で自由度が高い教室のほうが子どもの力を伸ばせると考えられます。

内田伸子(うちだ・のぶこ)
十文字学園女子大学特任教授。お茶の水女子大学名誉教授
専門分野は発達心理学、認知心理学、保育学。子ども番組の開発、教材の監修にも多く携わる。著書多数。

※AERA with Baby 4月号より抜粋