しかしながら、震災から4年が経過して、被災地への関心が薄れてしまったのか、ボランティアも応援職員も減少するばかりです。今年1月にようやく災害公営住宅の第1号が完成しましたが、仮設住宅から退去できた人はまだ2割程度。気仙沼だけでも8千人以上が仮設暮らしを続けているのです。仮設暮らしが長引くと、心の問題が表面化しています。

 先日も、仮設住宅の隣人との騒音トラブルの相談がありました。最初は親子でひとつの部屋に寝ていても、子供は成長します。小学生が中学生になり、高校受験へ向けた勉強を始めると、子供のための部屋を用意してあげたくなるのですが、仮設住宅では困難です。日々のストレスはたまるばかりです。仮設住宅の仕様によっては、隣の部屋のトイレを流す音が大きく聞こえてしまうそうです。

■住民の2割が災害公営住宅を選択

 住宅再建の状況ですが、気仙沼市内で被災した約9000世帯のうち2200戸が災害公営住宅への入居を選択しました。今年1月に、市内第1号となる災害公営住宅の入居が始まりました。入居開始は15年度がピークになります。一番遅いところでは、16年11月まであと1年8カ月も待たなければなりません。

 市が造成した安全な団地へ自宅を建てる防災集団移転は、966世帯が選択しました。すでに48区画が引き渡され、自宅が完成した地区もありますが、すべての造成が終わるのは18年3月の予定です。一部の地区では、それから住宅の建設が始まります。

 これ以外の世帯は、被災した自宅を修繕したり、個別に高台移転したりします。地元を出て仙台のマンションを購入した人、都市部の親類宅へ移り住んだ人も少なくありません。人口問題はより深刻になり、震災前の7万4247人から7000人ほど減少しました。震災で亡くなった人より、震災後に移転した人の方が多いのです。

■鉄道復旧が大きな課題

 気仙沼が抱える難問の一つが、被災したJR気仙沼線の復旧です。現在は線路跡の一部を舗装してバスを走らせる「BRT」で仮復旧し、鉄道の復旧を目指していましたが、JR、国、地元自治体が費用負担を巡って牽制し合い、議論が停滞しています。JRは復旧費用700億円のうち400億円を国や沿線自治体が負担することを求めているのですが、国は国鉄から民営化した黒字企業への財政支出を拒み、沿線自治体にも費用負担の体力がないからです。

 駅周辺にあった住宅が高台へ移転し、仙台と気仙沼を結ぶ三陸沿岸道路の整備も進むと、鉄道が復旧しても震災前のような利用者数は期待できません。本当に鉄道を復旧できるか不安が増し、BRT(バス高速輸送システム)を充実させればいいという意見も出始めています。復興予算がなくなれば、利用者が少ないローカル線の鉄道復旧は一層困難になってしまいます。

 課題は、ほかにもあります。震災によって人口減が加速したのに、集団移転などによって内陸部を開発し、津波で浸水した沿岸部も復旧することによって市域は拡大しました。人が分散したことで、にぎわい創りが難しくなります。気仙沼を支えてきた漁船漁業の後継者不足、少子化による小・中学校と高校の統廃合、超高齢化社会、直面する財政難、復興現場や水産加工場の人手不足、まちづくりの人材不足、多くの中学校の校庭を埋めている仮設住宅の集約、そして震災の教訓検証、次の災害への備え…、気仙沼は復興に全力を注ぎながら、地方が抱える問題も同時に解決していかなければならないのです。

■大切な「心の復興」

 子供のようにウルトラマンの登場を期待しながらも、自分たちが動かなければ何も始まらないことを忘れてはいません。現実の世界では、被災地に映画のようなヒーローはいないからです。私たちは、常に現実と理想のジレンマの中にあります。「震災前よりよくなることが復興だ」という目標を掲げながら、現実では難しいと悟り、お金に換算しない生き方、幸福度などに答えを求めようとしています。結局は「心の復興」が大切だと知ったのです。

 最後に、お願いがあります。私が震災5年目の被災地で最も心配しているのは心の問題です。ここまで来ると最低限必要な事業は時間がかかっても着実に前進するのですが、それを待つ被災者の中には心が折れそうな人もいます。この1年で災害公営住宅の入居時期が遅れることが2度も発表されました。心の強い人も、弱い人もいます。神戸の事例から、20年過ぎても遺族の悲しみが癒えないことも分かりました。できるだけ長く、被災地を見守ってください。

【今川悟】(いまかわ・さとる)39歳。自衛官、新聞記者などを経て14年4月から気仙沼市議会議員。被災地の現状と課題をまとめた「気仙沼復興レポート」を毎月11日に今川悟公式ホームページで発表している。

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