ピアニスト医師・上杉春雄さん
ピアニスト医師・上杉春雄さん

 世界的にもほとんどいない、医学博士にしてピアニストの上杉春雄さん(47)が、2月1日(日)、東京のハクジュホールでコンサートを開く。

 上杉さんは、脳神経外科病院の神経内科医長を務める現役の医師。一方で、国内はもとより、アメリカやヨーロッパでもリサイタルを行うピアニストでもある。2013年にはデビュー25周年を迎え、全国各地でコンサートを開催し好評を博した。

 5歳からピアノを始め、国内外のコンクールに入賞。中学生のときにはウィーンの音大教授から「今すぐ留学を」と勧められたが、その後、北海道大学医学部に進学。北大在学中の1988年、20歳のときにサントリーホール大ホール、大阪シンフォニーホールでデビューリサイタルを開いた。バイオリン奏者の諏訪内晶子とのジョイントコンサートも各地で開催。これまでにCDを6枚発表している。

 北大卒業後は勤務医となり、東大大学院で博士号を取得。神経難病などを担当している。医師になってからしばらくは、ピアノを封印していた。

 しかし、病院のロビーで弾いたピアノをたまたま聴いた患者が、涙ながらにこう言ったことで転機が訪れる。

「この数年間、病気のことで頭が一杯でしたが、先生のピアノを聴いたこの30分間だけは病気のことを忘れることができました。ありがとうございます」

 以来、患者のための院内コンサート開くようになる。2003年からピアニストとしての活動も再開した。医師として人を助け、ピアニストとして人の心を動かしているのだ。

 今回のコンサートで取り上げるのは、バッハの大曲「ゴールドベルク変奏曲」。

「この世のさまざまなものが、意外に単純な原理から生み出されていることに、しばしば気づかされることがあります。バッハの音楽には『一つから全てを、全てを一つに』というテーマがあります。このゴールドベルクは『一つから全てを』の代表で、愛らしいアリアから実に多彩な世界が広がっていく様子は誠に見事なものです」

 上杉さんはこう語り、ぜひ楽しんでほしいと次のように続ける。

「それは神様が、この世界を作っていく様子を音楽で表しているかのようです。しかも、バッハ自身が心から楽しんで作ったことがわかるような、実に楽しい音楽なのです。ぜひ皆さんにも楽しんでいただきつつ、ふとした瞬間に宇宙の神秘とか、神の配剤、というようなことも感じ取っていただければと思っています」

 上杉さんはピアノでどのように語りかけてくれるのか、期待が膨らむ。コンサートは2月1日、東京都渋谷区のハクジュホールで14時開演。

(ジャーナリスト・青柳雄介)