しかし、資本収益と所得の伸びが近づく局面があります。それは不況の時です。戦前では大正バブルがはじけ、昭和恐慌へと突き進んだ1920年代に両者が拮抗しています。

 戦後では、バブル崩壊後の失われた20年において、国民所得の伸びが株式投資リターンを上回っています。資本収益が国民所得を上回るのは普遍的な現象であるというのがピケティの主張ですが、それが正しいのだとすると、現在の日本は例外的に格差が縮小する時代だったということになります。

 実際、不況の時代には、高額所得者が減少し、所得格差が縮小するという現象が見られます。しかし、20年にわたって不況が続くというのは、世界的にみても珍しい状況ですから、ここ20年の日本はやはり特別なのでしょう。

 気になるのは今後ですが、アベノミクスが成功することになれば、日本の株価や不動産価格はさらに上昇するはずです。そうなってくると、富を持つ人と持たない人の格差は急激に拡大することになります。

 本コラムでも指摘した通り、アベノミクスによる株高の恩恵を受けた人は、株式を保有する富裕層に偏っているという現実があります。資本収益による格差から逃れるためには、何らかの形で投資を行い、資産から生まれる収益を自分のものにする工夫が必要となるでしょう。

ブログ「加谷珪一の分かりやすい話」より転載

【関連資料】
独自に収集した日米欧130年の歴史的データから投資を再考する
加谷珪一・著「お金は歴史で儲けなさい」(朝日新聞出版)
http://publications.asahi.com/ecs/detail/?item_id=16665