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被災地・神戸の“創造的復興”から生まれた新な文化とは

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元OSK日本歌劇団男役トップスターの那月峻(なつきしゅん)さん

元OSK日本歌劇団男役トップスターの那月峻(なつきしゅん)さん

那月峻さんを主宰に、神戸・北野を拠点に活動する歌劇ビジュー

那月峻さんを主宰に、神戸・北野を拠点に活動する歌劇ビジュー

「歌劇」と言えば、誰もが大舞台で繰り広げられる華やかなレビューを思い浮べ、夢のような世界を想像するのではないだろうか。しかし、そうした豪華なレビューとは全く趣の異なる客席参加型の小ステージで、等身大の人間心理を演じる歌劇がある。

 神戸・北野町の「BRUIN CAFE(ブラインカフェ)」を拠点に国内外で活躍する『歌劇☆ビジュー』は、2004年に阪神・淡路大震災10周年記念事業で誕生した県民劇団で、元OSK日本歌劇団男役トップスターの那月峻(なつきしゅん)さんを主宰とする固定メンバー7人の女性だけの演劇ユニットだ。

 被災地をテーマにした作品など、観る者の心に響くメッセージ性の高いストーリーと、最小限のセットを巧みに使い少人数で演じる斬新な演出法は、2006年文化庁芸術祭演劇の部・優秀賞受賞、2007年兵庫県芸術奨励賞を受賞するなど高い評価を得ている。

 2003年のOSK日本歌劇団の解散を機に「後は後輩に任そう」と卒業を決意した那月さんは、「やっぱり自分の出来ることはこれしかない」と、同期で親友の脚本・演出家の敬天(あつたか)さんとともに退団し劇団活動を始めるが、当初は観客が全く来ない辛い日々も経験する。

 しかし、「お客様と身近に接することができるような、客席参加型にしたい」という思いから生まれた斬新な演出が功を奏した。手を伸ばせば観客に触れるほどの至近距離で演じるために、ごまかしは一切効かない。一寸の隙も無く全身全霊を投じる那月さんの演技に、観客の反応がダイレクトに返ってきた。舞台の最中に感情移入してボロボロと涙を流す人や、舞台の後に男女を問わず「その気持ち分かるわ」と、直にことばを掛けてくれることが励みになった。自分たちで築き上げた舞台には、大舞台に立っていた頃には味わえなかった“人と人との絆”という醍醐味が待っていた。だから、いつも全力で頑張ってきた。

 10年前に震災を題材にした舞台で、「まだ気持ちが落ち着かず、見ることができない」と言われたことばが今も心に残っている。「人の心に残った痛みを、忘れずに伝えていくことが大切。苦しみを乗り越えたからこそ今があることや、生きたくても生きられなかった人がいること、何より、今ある命を大切にすることを伝え続けていきたい」と那月さん。

 20年前の震災で神戸の街が失ったものはあまりに多すぎる。しかし、先人たちが培ってきた文化を活かしながら“創造的復興”を目指した神戸の街には、人の心に温もりを届け、明かりを点す『歌劇☆ビジュー』という新たな文化が生まれた。きらめく宝石の意を持つ“ビジュー”。震災から立ち上がった神戸の街から力強い輝きを放ち続けることだろう。


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