厚生労働省の発表によれば、労働局が設置している「総合労働相談コーナー」に、2013年に全国からよせられた相談件数は約105万件に上る。相談件数は、08年に100万件を超えて以来、一度もその数字を下回っていないが、実際には相談のない――表からは見えない――トラブルも多数存在しているのだという。

 朝日新聞夕刊の連載「働く人の法律相談」を担当している弁護士チームのひとり、弁護士の佐々木亮氏は書籍『会社で起きている事の7割は法律違反』(朝日新書)の中で、「実際の労働の現場には大小さまざまなトラブルが潜んでいます」とその実態について指摘する。

 同書は、同連載で日々労働者から寄せられる職場における「ありとあらゆる悩み」の中から115事例をピックアップし、解決策等を一冊にまとめたもの。同連載を担当する17名の労働問題専門の弁護士が様々な悩みに答えている。

 例えば、会社でセクハラ相談窓口をしている男性からはこんな相談が届いている。

【女性社員から被害の申告がありました。男性上司から食事に誘われ、帰り際にキスされたというものです。男性に事実確認したところ、『合意の上だ』と言います。(中略)どう対応すればいいでしょう――】(同書より)

 この相談を担当した弁護士・板倉由実氏によると、セクハラは「意に反する(望まない)性的行動」で、権力関係にもとづく性差別であるが、加害者側が合意した状態であると勘違いしている場合も多いのだという。社内の人間関係の背景には権力関係が存在するため、被害者が加害者に逆らうことが出来ず、社内の雰囲気を気にして喜んでいるかのような対応をする場合が多い。それが「合意の上」「恋愛だ」と加害者に思い込ませる要因になっているのだとか。

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