たとえば「気が悪くなる」。

 江戸時代では、「なんだかきょうは、いっそ気が悪くって、悪くって、してもしてもしてえよ」(同書より)や、「乳をいじると気が悪くなるというが、わたしゃぁ、さっぱり悪くならねえよ」(同書より)のように使われていたという。つまり、現代とは逆に「ムラムラしてくる、性的に興奮する」という意味。また、「気をやる」は、絶頂に達することで、「ええ、もうもう、意地の悪いほど気をやらせることが名人だのう。もうもう体が溶けるようだ」(同書より) のように使われていた。現代で言うなら「イク」に該当する言葉だ。

 こうした性語は、吉原遊郭の花魁や、岡場所の遊女といったプロの“玄人”だけでなく、下級武士や庶民の娘など“素人”も日常で使用していた。書き入れを読み解くことで、セックスを楽しむ江戸時代の庶民の姿が、生き生きと浮かび上がってくる。

 同書のなかでは 用例に合わせた“体位”の春画も53点収録し、絵と文章の両方を気軽に楽しめる一冊となっている。時代考証の宝庫である春画・春本の書入れから垣間見える、“江戸っ子のセックス観”。是非、覗いてみてはいかがだろうか。