ジャンプでミスを連発、目を疑うような演技だった。
フィギュアスケートのグランプリ(GP)シリーズ第6戦、NHK杯でソチ五輪金メダリストの羽生結弦(19)は、ショートとフリーともに精彩を欠き4位にとどまった。直後のインタビューでは気丈な言葉を並べた。
「(中国杯での激突の)痛みや練習不足はまったくありません。練習では跳べていたので、これが僕の今の実力です」
だが、あるスポーツライターは次のように語る。
「よほど痛みがあったのでしょう。フリー冒頭の4回転サルコーは2回転、次の4回転トーループも3回転になり転倒してしまいました。これで集中力を失い、リズムもおかしくなった。その原因は、けがの影響から練習があまりできなかったことです。ただ、それでも表現力で得点を上げたのはさすがです」
元五輪選手でプロスケーターの渡部絵美さんもこう指摘する。
「ケガから完全に立ち直っていませんでしたね。一般論で言えば、今回とGPファイナルは休んで、年末の全日本に照準を合わせたほうがよかったと思います。もっと言えば、中国杯も棄権すべきだったのでは。でも、特に一流選手は休むと、取り戻すのに倍以上の時間が必要となります。それが怖かったのかもしれませんね」
中国杯を終えて、約10日ほど休みを取り、氷上練習を再開したのは地元・仙台だった。そのときはまだ激しい痛みが残り、体が動かなかった。関係者によると、自分の不甲斐なさに涙を流したという。NHK杯の直前に会場の大阪入りし、やっと4回転が跳べるようになった。しかし、感覚は戻っていなかった。
心配なのは、中国杯でのケガの「後遺症」が残ること。羽生は2012年の世界選手権で右足首を、翌年には左ヒザを痛め古傷となっている。腰にも痛みがあり、満身創痍なのである。強行出場した今回、無理をしたことで古傷を増やすことにならなければいいのだが。
「中国杯やNHK杯に出場したのは、大会に出ることが好きで、多くの人に演技を見てもらいたいという思いが人並み以上だからです。彼にとって今はどん底のような状態ですが、それをバネにして這い上がってこそ真の一流アスリートです。羽生選手にはその力があります」(渡部さん)
11月30日、会見に臨んだ羽生は、
「もう一度、一番高いところに立ってやる、と思いました」
「この壁を打ち砕いて乗り越えたい。乗り越えた先にある景色はいいと信じている」
「弱いということは、強くなる可能性がある」
と前向きな言葉を並べた。
NHK杯で4位となり、ぎりぎりで連覇を狙うGPファイナルの出場権を得た。一度沈んだところから高くジャンプしようとする羽生。それができるようになったとき、これまでの自分を超える未知の領域に届くかもしれない。
(ジャーナリスト・青柳雄介)