球界を代表するバッターに成長したヤクルト・山田哲人(c)朝日新聞社 @@写禁
球界を代表するバッターに成長したヤクルト・山田哲人(c)朝日新聞社 @@写禁

 シーズン前、ヤクルト・山田哲人の飛躍を予想した人はどれだけいただろうか。
山田は、大阪・履正社高から2010年ドラフト1位でヤクルトに入団した。1位といっても、抽選で2回も外した後に指名された、いわゆる「外れの外れ」の1位。決して圧倒的な評価を受けていたわけではない。

 プロ1年目の山田は、レギュラーシーズンの1軍出場こそなかったが、クライマックスシリーズでプロ初出場を果たした。2年目は1軍で26試合に出場。3年目は94試合に出場したが、打率.283、3本塁打と決して目立つ成績ではなかった。

 それが、今季の山田は大きく飛躍した。出場試合は143試合に増え、打率.324、29本塁打(いずれもセ・リーグ3位)、89打点(同4位)という強打者に成長。リーグ最多の667得点を記録したヤクルト打線のリードオフマンとして、チームをけん引した。

 今季、チームはリーグ最下位に沈んだものの、最優秀選手賞(MVP)に山田を推す声も多かった。実際、プロ野球担当記者らのMVPの投票では、MVPに選出された巨人・菅野智之に次ぐ2位となっている。

 主な打撃部門の成績以外でも、見事な成績を残している。日本プロ野球史上初となる、6カ月連続の初回先頭打者本塁打をマーク。5月に42安打、8月も41安打と、月間40安打以上を2度記録し、ヒットを量産した。シーズン通算で192安打を放った。これは、元阪神・藤村富美男が1950年に樹立した記録を上回り、日本人右打者のシーズン歴代最多である。

 山田の成績を詳しく分析すると、驚異的な数字を残している。「ボールカウント別の打撃成績」だ。初球の打率は.364で、セ・リーグで規定打席に達した選手の平均.360をわずかに上回るだけだ。だが、2ストライク時の打率は平均の.215を大きく上回る.292。セ・リーグで首位打者となったマートン(打率.338)でさえも、2ストライク時は.241まで下がっている。

 ホームランでも同じ傾向が見られる。2ストライクをとられたカウントで、どれだけホームランを打ったかをみると、パ・リーグ本塁打王の西武・メヒアが11本に対して、山田は12本もホームランを放っている。

 カウントが追い込まれても、当てにいくバッティングではなく、フルスイングをしながらも確実にとらえ、長打を打てる…相手チームのバッテリーにとっては、これほど嫌な打者もいないだろう。

 山田は、チームの勝利への貢献度も高い。映画『マネーボール』でも話題となった野球指標「セイバーメトリクス」の中にRCAAというものがある。これは、リーグ平均の打者と比べて、その選手がチームにどれだけの得点をもたらしたかを計るもの。

 この結果をみると、山田は48.81で12球団トップである。つまり、平均的なバッターと比べて、山田はチームに約50点も上乗せていたのだ。

 こんなデータもある。各選手がどれだけ勝利をもたらしたのかを示す指標(RCWIN)では、山田はオリックス・糸井嘉男の5.06に次ぐ5.01という記録を残した。糸井が外野手なのに対して、山田は守りの負担も大きい二塁手だ。

 二塁手のシーズンを通じたRCWINを見ると、今季の山田は歴代4位に位置している。球史に名を残すバッターと比較しても遜色がないといえるだろう。三冠王に輝いた元ロッテ・落合博満の5.21(1982年)や、首位打者と打点王を獲得した元横浜・ローズの5.57(99年)とほとんど変わらないのだ。この数字から言えることは、今季の山田は、最盛期の落合やローズに匹敵する攻撃力を見せたことがわかる。

 山田は22歳と若く、成長の余地もまだまだある。近年、ケガ人の多さなどで低迷するヤクルトだが、山田が活躍すれば、チームも上昇し、セ・リーグを席巻する可能性も当然大きくなるのだ。

(野球ライター・京都純典)