システムの仕組み自体は、至ってシンプル。まず家畜の糞尿が場内の牛舎から地下パイプを通り、原料槽へと送られる。その後、第一次発酵槽にて発酵処理され、そこで生じた消化液をガスホルダーと呼ばれる別の発酵槽へと移動、さらに発酵する。ここで初めて、バイオガスの元となるメタンガスが発生するわけだが、第二次発酵槽の上部はテント状になっており、ガスが溜まれば溜まるほど大きく膨らむ仕掛けになっている。溜められたガスには硫化水素が含まれているので、硫化水素を除去(脱硫)。最後に脱硫したメタンガスを発電装置に送り込み、電気がつくられるというわけだ。

■牛と馬、発電効率がいいのはどちらのフン?

 このシステムでは、1日におよそ6tもの糞尿を処理することができ、発電量は毎時30kw。実際に発電された電気は、牧場施設内の電力の60%をまかなっているという。

「一度に発電できる量は外気の気温や投入する排せつ物の質量によっても変わってくるため、どうすれば最も処理効率が良いか試行錯誤を重ねた」と、現場の管理を担当する同社生産部の中島康弘氏は言う。

 例えば、牛と馬・羊のフンではその質が全く異なる。馬や羊の胃は繊維の消化率が低いため、食べた草の芯が小さく刻まれた状態で、うさぎのフンようなコロコロとしたフンとして出てくる。一方、牛の場合は胃が4つあるため、繊維の消化率が高い。加えて乳用牛は乳を出すため一日当たりの摂取水分量も多いことから、ドロドロとしたフンをする。

 これらをバイオマスプラントで処理する際、馬や羊のフンは乾燥しているため、余計に加水する手間が必要となってしまうそうだ。

「はじめはすべてのフンをミックスした状態で処理していたが、結果的に牛のフンに絞ることで、より無駄なく、効率よくシステムを運用することができるようになった」(中島氏)

 ちなみに、このシステムに投入される排せつ物は、最終的に発電のためのバイオガスと牧草地の堆肥となる消化液となって処理されるが、後者はミネラルが多くサラサラとした液体肥料となる。実際に記者もペットボトルに入った液肥を手に取って見たが、ドロドロのフンからは想像もつかないような真っ黒な液体となっており、例のイヤなにおいもほとんど残っていなかった。

■安定運用を心がけ、循環型エコシステムのモデルに

 同牧場がバイオマスプラントシステムを導入し、今年で10年。システム一式にかけた事業費は約1億3500万円だが、事業費の半分は国、6分の1を県からの補助金でまかなっているという。

「個人の酪農家でこれだけの設備を取り入れるのは、初期費用や日々の運用面でも難しい部分はあるだろう。しかし、産廃として処理に手を焼いていた家畜の排せつ物が、工夫次第で新たなエネルギーとなって生まれ変わることができる。今後も安定した運用を続け、『循環型』エコシステムのモデルとなればうれしい」(前出・野瀬氏)

 高千穂牧場のバイオマスプラントをはじめ、次世代の私たちの生活を支える新たなエネルギーの形を探る同県のエネルギーパークでは、再生エネと宮崎の観光資源である日向神話などを融合させた見学・体験メニューなどを検討しているという。再生エネといえば、太陽光や水力がメジャーどころではあるが、各地のエネルギーパークに足を運ぶことで、今まで知ることのなかった新しいエネルギーの在り方を考え、また新たなヒントを得ることができそうだ。