「牛乳乳製品によるメタボリック症候群予防の可能性―ランダム化比較研究の結果より― 」をテーマに、第37回メディアミルクセミナーが開催された
「牛乳乳製品によるメタボリック症候群予防の可能性―ランダム化比較研究の結果より― 」をテーマに、第37回メディアミルクセミナーが開催された
医師の細井孝之氏(医療法人財団健康院 健康院クリニック 副院長、兼、予防医療研究所 所長)が研究結果を発表した
医師の細井孝之氏(医療法人財団健康院 健康院クリニック 副院長、兼、予防医療研究所 所長)が研究結果を発表した

 食欲の秋。気が付くとベルトの穴をまた一つ緩める破目に……なんていう人も多いかもしれない。メタボリック症候群の診断基準が「へその高さの腹囲、男性は85センチ以上、女性は90センチ以上、かつ、高脂血症、高血糖、高血圧のうち2つ以上に該当する」と定められたのは2005年4月のこと。以来10年ものあいだ、このメタボという言葉の呪縛にとらわれながら過ごしてきた私たちにとって、気になる研究結果が発表された。そのデータを導きだしたのは、私たちに身近な「牛乳・乳製品」だ。

 牛乳といえば、カルシウムのとれる栄養食品であると同時に、生クリームの原料でもあり、脂肪分を含んでいるため「飲むと太る」と思いこんでいる人もいるようだ。しかし、海外のこれまでの研究では、牛乳や乳製品を多くとる食生活を送っている人は、むしろメタボになりにくかったり、血圧が下がったりする効果がある可能性が示唆されていた。この研究結果は日本人にもあてはまるか、が今回の研究テーマだ。一般社団法人Jミルクが2014年9月25日に開いた第37回メディアミルクセミナーで、「牛乳乳製品によるメタボリック症候群予防の可能性」というテーマで報告された。

 研究を主導したのは細井孝之医師(医療法人財団健康院健康院クリニック副院長、予防医療研究所所長)。細井さんは、「日本においてはなぜか、牛乳を飲むと太る、血清脂質プロフィールを悪化させる、といった漠然とした疑問が散見されることがあるが、実は、海外では逆に牛乳や乳製品を多く摂っているほどメタボリックシンドロームが少ないことが報告されている」として、日本人を対象に調べることにした。20~60歳の男性200人を2グループに分け、102人には24週間、食事指導に加え、毎日400グラムの牛乳・乳製品をとる生活を続けてもらい、残り98人には食事指導のみを行って、血圧や腹位、コレステロール値などの推移を調べた。その結果、牛乳や乳製品をとったグループの人たちは、そうでない人たちに比べ、血圧の低下の幅がより大きかったという。「日本人の食生活における、乳・乳製品とメタボリックシンドロームの予防、改善の関連性について、わが国発の有効なエビデンスになるであろう」と細井さんは話した。

 今回の研究に協力した男性200人は、腹囲85cm以上、BMI25kg/平方メートル以上、総コレステロール200mg/dL(≒LDL120mg/dL)以上、空腹時中性脂肪150mg/dL以上、空腹時血糖値100mg/dL以上、収縮期血圧130mmHgまたは拡張期血圧85mmHg、の6つの指標のうち2つ以上に該当する人たち。喫煙者、牛乳アレルギーなど牛乳の摂取に健康上の問題のある人、重篤な心疾患や脳血管疾患、腎疾患、糖尿病の病歴のある人は除外した。全員に、食事からの適正なエネルギーと栄養素の摂取についての指導を行った。牛乳や乳製品を摂取したグループもそれ以外の人たちも、食事指導によって腹囲や血圧、体重、体脂肪率、総コレステロール数などが改善したことは共通していたという。

 鶏が先が卵が先か? という因果性についてよく話がされるが、良い食事習慣によってメタボが改善されたことにより身体が軽くなり運動習慣ができたのか? それとも牛乳や乳製品を摂る習慣がきっかけとなり、自らの健康への意識が高まり、運動習慣ができたのか? この結果からも適度な運動と食生活の改善がメタボ改善の早道といえそうだ。

 いずれにせよ、日本人の食生活における牛乳・乳製品の関連性と、これからの研究に注目しておきたい。

 この研究結果は、Journal of Nutritional Science and Vitaminology (JNSV) 5:305-312, 2014 に掲載されている。