日本での前回の発生は1943年。長崎、呉、神戸、大阪などでデング熱が流行した。第二次世界大戦の最中で、海外との行き来が多かったことに加え、都市部では空襲に備えて防火水槽の設置が義務づけられ、ヒトスジシマカの温床になっていたと報告されている。敗戦でそうした環境が変わり、流行は途絶えていた。今回の国内感染は、海外での大流行と、ここ10年で1.5倍に増えている出入国者の増加が背景にある。

 地球温暖化が進むと、状況はさらに悪化するかもしれない。二酸化炭素など温室効果ガスの排出がこのまま増えると、日本の平均気温は今世紀末には3.5~6.4度上昇すると見られている。デング熱を媒介するヒトスジシマカは年平均気温が11度以上の地域に定着する。1950年までは東北地方にはほとんどいなかったのに、現在は青森県南部まで広がり、いずれは北海道に侵入すると予測されている。都市部やその周辺では、ヒートアイランド現象によって気温が上がると、蚊の体内でのウイルスの増殖がより活発になる可能性も指摘されている。

 蚊による病気は、ほかにも日本脳炎やウエストナイル熱などがある。日本脳炎ウイルスは水田などで発生するコガタアカイエカが媒介する。ウイルスを持った蚊は毎年検出されており、感染の機会が無くなったわけではない。このウイルスも、夏の気温が高い年には活動が高まることがわかっている。

 マラリアの国内の患者は、戦地からの復員者が多かった1946年、2万8千人でピークを迎えるが、その後減少。現在は外国で感染して日本で発症する人が年間100人未満報告されているに過ぎない。国内では感染源となる患者がほとんどいないため、大流行の恐れは少ないとされているが、温暖化が進めば楽観はできないと指摘する専門家もいる。

 予防策の第一は、とにかく蚊に刺される機会を減らすことだ。長袖、長ズボンや虫除けを使う。もしも刺されて、気になる症状が続くようであれば、海外旅行者の診療に強い病院を紹介してもらうのがいいだろう。

(文・添田孝史)

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ビル・ゲイツ氏 公式ブログ
http://www.gatesnotes.com/Health/Most-Lethal-Animal-Mosquito-Week