2013年4月に施行された「改正高年齢者雇用安定法」により、現在、企業で働くサラリーマンは本人が希望すれば65歳まで働くことができるようになった。そして引退後は、新しく趣味を始めたり、行ったことのない土地を旅したりと、今までとは違った生活を送る人は多い。

 そんな中、残りの人生をお金のためではなく、世のため人のために役立つ仕事をしたいと願うシニア世代が増えている。

『定年後 年金プラス、ひと役に立つ働き方』(朝日新書)は、実際にシニア世代の人たちが、そうした思いを胸に活躍する現場を描いている。

 著者の杉山由美子氏は、「老若男女共同参画社会」を目指す「シニア社会学会」の会員で、シニア世代の働き方にくわしい。杉山氏が本書で紹介するのが、茨城県ひたちなか市の地域密着スーパーマーケット「くらし共同館なかよし」だ。

 杉山氏が「これから起業するひとやNPOをはじめるひとの参考になると思う」(同書より)と評価するこのスーパーは、郊外に取り残された住宅地の中にある。過疎化、高齢化で撤退した生協を引き継ぐ形で運営され、年商4000万円、年間のべ利用者8万5000人。経産省の「ソーシャルビジネス55選」に選ばれた。同スーパーの理事長である塚越教子さんは、なかよしを運営する理由について、地域の住民から生協の存続を求める声が多かったことを挙げる。

 現在、なかよしで働くスタッフは50歳から70歳の女性がほとんど。有償ボランティアという位置づけのため、1時間働いてもらえるお金は240円だが、スタッフからは不満の声は上がっていないという。お金よりも、困っている地域住民のために働くとことを “いきがい”にしているためだ。

 塚越氏はなかよしについて「収益目的ではなく、高齢者のニーズを最優先している」と話す。住民である高齢者たちが買い物できる環境を整えること、そしてシニア世代の人たちが“いきがい”を持って働ける環境を整えること。このふたつがなかよしの役割なのである。

 本書は他にも、60歳以上限定の人材派遣会社や、リピーター率90%の介護タクシー、アジアの子どもを支援する元広告マン、営業職から転じた植木職人、資格を取って独立した社会保険労務士など、シニア世代が働く30の現場を取り上げている。シニア世代に限らず、このような働き方を知ることは、若い人たちにもきっと役立つはずだ。