夏休みに帰省する人も多いこの時期。交通渋滞に巻き込まれながらヘトヘトになってたどり着くと、そこに待っているのは、うんざりしつつも、懐かしいような、こそばゆいような、ちょっと照れ臭さの混じった“故郷”だ。

 しかし、世の中には故郷のない人も少なくない。親の都合で何度も引っ越しを繰り返したことで、故郷と呼べる場所を持つことができなかった人や、先の東日本大震災により、故郷を失ってしまった人もいる。様々な事情のなかで、「帰る場所」である故郷を持たない人たちにとって、お盆や年末年始はちょっと物足りなさを感じるイベントなのではないだろうか。

 不動産情報サイトのアットホーム株式会社がまとめた意識調査によると、東京出身者40.7%が「故郷と呼べる場所がない」と答えたという。つまり、東京出身者の約4割は、東京を故郷として認識できていないようだ。

 ただし、「子どもにとって故郷と呼べる場所は必要か」という問いに対しては、地方出身者も含めた全体の76%が「はい」と回答しており、東京出身者だけを見ても69.7%と半数以上を占めた。東京出身者で自分には「故郷がない」と思っている人でも、子どもには「故郷と呼べる場所」が「必要」であると考えているようだ。

 ちなみに「子どもが故郷と呼べる場所を持つために、その土地に何年以上、住めば良いか」という問いに対しては、全体で平均 14.8年という数字となっており、移り住んだ町が「故郷」になるまでに、最低でも10年以上かかると思っている人が多いことがわかった。

 一方で、東京出身者に対して「地方で田舎暮らしがしたいか」と質問したところ「はい」と回答したのは20.7%にとどまった。また、地方出身者に対して「将来、故郷に戻って暮らしたいか」と質問したところ「はい」と回答したのは24%に過ぎなかった。「子どもには故郷が必要」と思いながらも、田舎暮らしをしたり、故郷に戻ったりすることには抵抗を感じているという結果となった。もっとも「良い仕事があれば、地方で働きたいか」という質問に対して、全体の41.3%が「はい」と回答しており、「故郷には戻りたいが仕事がない」現実的な問題が伺える。

「故郷(ふるさと)は遠きにありて思うもの」とうたったのは室生犀星だが、東京出身者にとって東京を故郷と認識できないのは、距離という要因も大きいのかもしれない。また、「故郷にあったら良いと思うものは何か」という項目で、1位は「豊かな自然」、2位は「気の合う友達」、3位は「美味しい郷土料理」という結果となったことからも、地元意識の薄い東京では、郷愁を感じることは難しいのであろう。

“故郷”がないことは寂しいことだが、“故郷”は作ることができる。大切なのは「帰りたい」と思える場所を持つことなのかもしれない。